株式譲渡とは?メリットデメリットやM&Aでの手続きの流れ、税金について解説

株式譲渡とは?メリットデメリットやM&Aでの手続きの流れ、税金について解説

株式譲渡とは、会社の株式を売買することで経営権を移転させるM&Aの手法です。この記事では、株式譲渡の基本的な意味から、具体的な手続きの流れ、発生する税金、メリット・デメリットまでをわかりやすく解説します。

M&Aや事業承継を検討している経営者にとって、株式譲渡は重要な選択肢の一つであり、その全体像を理解することが成功への第一歩となります。

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株式譲渡とは会社の経営権を売買するM&A手法のこと

株式譲渡は、売り手企業の株主が保有する株式を買い手企業に売買し、会社の経営権を移転させるM&Aスキームです。この手法の目的は、事業承継、創業者利益の獲得、事業の選択と集中など多岐にわたります。株式の売買を通じて、買い手は対象会社の支配権を獲得し、親会社となります。

これにより、売り手企業は子会社として存続し、親子関係が形成されることになります。
グループ内再編の一環として、親会社と子会社間で行われることもあります。

株式譲渡と他のM&A手法との違い

株式譲渡と他のM&A手法との違い

M&Aには株式譲渡以外にも様々な手法が存在し、それぞれ特徴が異なります。
代表的な手法である「事業譲渡」「株式交換」「合併」は、目的や状況に応じて使い分けられます。

これらの手法と株式譲渡との違いを理解することは、自社にとって最適なM&Aスキームを選択する上で非常に重要です。ここでは、各手法との相違点を比較し、それぞれの特性を明確にします。

事業譲渡との違い

株式譲渡と事業譲渡の最も大きな違いは、取引の対象です。株式譲渡が会社の経営権、つまり会社そのものを取引対象とするのに対し、事業譲渡は会社の事業の一部または全部を個別に売買します。

このため、株式譲渡では売り手企業の法人格が存続しますが、事業譲渡では事業が買い手企業に移転するだけで、売り手企業の法人格はそのまま残ります。それに伴い、資産や負債、契約関係の承継手続きも大きく異なり、事業譲渡では従業員の雇用契約や取引先との契約を個別に再度結び直す必要があります。

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株式交換との違い

株式交換は、買い手企業が売り手企業の全株式を、対価として自社の株式を交付することで取得し、完全親子会社関係を構築するM&A手法です。株式譲渡の対価が原則として現金であるのに対し、株式交換では対価が株式である点が大きな違いです。これにより、買い手は手元に多額の現金がなくても買収を実行できるメリットがあります。

一方、売り手企業の株主は、現金ではなく買い手企業の株式を受け取ることになるため、譲渡後も買い手企業の経営に関与する形になります。

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合併との違い

合併は、複数の会社を法的に一つの会社に統合する組織再編行為です。特に吸収合併の場合、一方の会社(消滅会社)の権利義務のすべてをもう一方の会社(存続会社)に承継させ、消滅会社は解散します。

これに対して株式譲渡は、会社の株主が変更されるだけで、会社自体は消滅せずに存続する点が根本的に異なります。合併は組織を完全に一つにする強力な統合手法ですが、手続きが複雑で時間を要する一方、株式譲渡は比較的簡易な手続きで経営権を移転させることが可能です。

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【売り手側】株式譲渡で会社を売る4つのメリット

【売り手側】株式譲渡で会社を売る4つのメリット

会社を売却する売り手側にとって、株式譲渡という手法には多くのメリットが存在します。ここでは、売り手側が株式譲渡を選択する際に得られる主な4つのメリットについて具体的に解説していきます。

比較的簡単な手続きで会社を譲渡できる

株式譲渡の大きなメリットは、他のM&A手法と比較して手続きが簡便である点です。

事業譲渡のように、資産や負債、許認可、従業員との雇用契約などを個別に移転させる煩雑な手続は必要ありません。株主が保有する株式を買い手に渡すことで経営権が包括的に移転するため、当事者間の合意形成と契約締結、そして株主名簿の書き換えが主な手続きとなります。

これにより、比較的短期間でM&Aを完了させることが可能であり、経営への影響を最小限に抑えられます。

事業や従業員の雇用をそのまま引き継げる

株式譲渡では、会社の株主が変わるのみで、会社自体は存続します。そのため、会社がこれまで培ってきた事業、ブランド、取引先との関係性は維持されます。

従業員の雇用契約については、一般的に買収企業との間で転籍に関する合意書を締結し、新たな雇用契約を結ぶことで引き継がれます。これにより、従業員の雇用維持に配慮しつつ、事業の継続性を保つことが可能となり、社内外への影響を少なく抑えることができます。

後継者不在に悩む経営者にとって、従業員や取引先に配慮しながら事業承継を実現できる有効な手段であり、相続対策としても活用されます。

創業者利益としてまとまった現金を得られる

オーナー経営者が株式譲渡を行う場合、株式の売却対価としてまとまった現金を直接受け取ることができます。これは、会社を設立し育て上げてきた創業者としての努力が報われる「創業者利益」の確定を意味します。

株式交換のように対価が株式ではなく現金であるため、リタイア後の生活資金や新たな事業への投資資金として自由に活用できます。役員退職金を合わせて受け取ることで、さらに多くの資金を確保することも可能であり、入金後の資産計画を立てやすいという利点があります。

売却益にかかる税負担を抑えやすい

個人株主が株式を売却して得た利益(譲渡益)には、所得税と住民税が課税されます。この際の課税方式は「申告分離課税」が適用され、給与所得など他の所得とは合算されずに、譲渡益に対して一律の税率で計算されます。税率は所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%の合計20.315%です。

高額な譲渡益が出た場合でも、累進課税が適用される総合課税に比べて税負担を抑えやすい傾向にあり、税務上のメリットが大きいと言えます。

【売り手側】株式譲渡で会社を売る3つのデメリット

【売り手側】株式譲渡で会社を売る3つのデメリット

株式譲渡は売り手にとって多くのメリットがありますが、一方で注意すべきデメリットも存在します。
会社全体を譲渡することに伴う制約や、予期せぬトラブルのリスクを事前に理解しておくことが重要です。

ここでは、売り手側が直面しうるデメリットや役員が注意すべき点について解説します。

会社の一部事業だけを切り離して売却できない

株式譲渡は、会社の経営権を包括的に移転させる手法であるため、特定の事業や資産だけを選んで売却することはできません。例えば、複数の事業を展開している会社が、好調なA事業は手元に残し、不採算のB事業だけを売却したい、というニーズには応えられないのです。

100%の株式を譲渡する場合、会社が保有するすべての資産、負債、事業が一体として買い手に引き継がれます。一部事業の切り離しを希望する場合は、事業譲渡など他のM&Aスキームを検討する必要があります。

不採算事業も引き継がれるため売却価格が低くなる可能性がある

会社を丸ごと売却するという性質上、優良事業だけでなく、不採算事業や不要な資産、将来的なリスクを内包する要素もすべて買い手に引き継がれます。買い手はデューデリジェンス(買収監査)の過程でこれらのマイナス要素を詳細に調査し、企業価値評価に反映させます。

その結果、売り手が期待していた売却金額よりも低い価格を提示される可能性があります。不採算部門の存在が、会社全体の評価額を引き下げる要因となり得ることを理解しておく必要があります。

すべての株主から譲渡の同意を得る必要がある

M&Aで会社の全株式(100%)の譲渡を目指す場合、原則としてすべての株主から株式を買い取る必要があります。株主が創業者一人の場合は問題ありませんが、複数の株主が存在する場合、その全員から譲渡の同意を取り付けなければなりません。

一部の株主が譲渡に反対したり、連絡が取れなかったりすると、手続きが滞る原因となります。特に、少数株主が協力を拒否するケースでは、M&Aの成立自体が危ぶまれるリスクも存在し、同意を得るべき株式の割合を確保するための交渉が難航することもあります。

【買い手側】株式譲渡で会社を買うの3つのメリット

【買い手側】株式譲渡で会社を買うの3つのメリット

株式譲渡による企業買収は、買い手側にも多くの戦略的メリットをもたらします。ここでは、買い手側が株式譲渡を選択することで得られる主な3つのメリットについて詳しく見ていきます。

会社の経営権を獲得できる

株式譲渡によって対象会社の発行済株式のすべて、あるいは3分の2以上を取得することで、会社の経営権を完全に掌握できます。これにより、株主総会での特別決議を単独で可決できるようになり、定款変更や合併、事業の重要な譲渡など、経営に関する重要な意思決定を迅速に行うことが可能となります。

グループ会社として一体的な経営戦略を展開しやすく、買収後の統合プロセス(PMI)もスムーズに進められるため、シナジー効果を早期に創出しやすいというメリットがあります。

事業に必要な許認可をそのまま継承できる

株式譲渡では、株主構成が変わるだけで会社法上は同一の法人格が維持されます。そのため、対象会社が事業を行う上で取得している許認可や免許、登録なども、原則としてそのまま引き継ぐことが可能です。

事業譲渡の場合は、買い手側が新たに許認可を取得し直す必要があり、多くの時間と手間がかかるケースが少なくありません。

株式譲渡であれば、このプロセスを省略できるため、買収後すぐに事業を継続・拡大できるという大きな利点があります。ただし、法律によっては株主の変更に伴う届出が必要な場合もあるため注意が必要です。

短期間で事業規模を拡大できる

自社でゼロから新規事業を立ち上げたり、既存事業のシェアを拡大したりするには、長い期間と多大な投資が必要です。株式譲渡によって既存の会社を買収すれば、その会社が持つ人材、技術、ノウハウ、顧客基盤、販売網といった経営資源を一度に獲得できます。

これにより、事業の立ち上げや拡大にかかる時間を大幅に短縮し、速やかに市場での競争優位性を確立することが可能になります。特に、異業種への参入や、特定の地域への進出を狙う際に効果的な戦略となります。

【買い手側】株式譲渡で会社を買う3つのデメリット

【買い手側】株式譲渡で会社を買う3つのデメリット

株式譲渡による買収はメリットが大きい一方で、買い手側には慎重に検討すべきデメリットも存在します。ここでは、買い手側が株式譲渡を進める上で直面する可能性のある3つのデメリットと、それに伴う債務のリスクについて解説します。

簿外債務など不要な負債も引き継がれるリスクがある

株式譲渡では、資産だけでなく負債もすべて引き継ぐことになります。これには、貸借対照表に記載されていない簿外債務や、将来発生する可能性のある偶発債務(未払残業代、訴訟リスクなど)も含まれます。これらの隠れた負債は、買収後の経営に深刻な影響を及ぼすリスクがあります。

そのため、買収前に行うデューデリジェンスで徹底的にリスクを洗い出すことが不可欠です。
また、株式譲渡契約書に表明保証条項を盛り込み、売り手に一定の責任を負わせることで、リスクを軽減する対策も重要です。

買収に多額の資金が必要になるケースがある

企業買収の対価は、対象会社の純資産だけでなく、将来の収益性やブランド価値、技術力なども含めた企業価値全体を評価して決定されます。そのため、買収には多額の資金が必要となるケースが一般的です。自己資金だけで賄うことは難しく、多くの場合、金融機関からの融資など外部からの資金調達が必要となります。

資金調達の計画や返済計画を綿密に立てなければならず、買収価格に加えてM&A専門家への仲介手数料などの費用も発生するため、全体の資金計画を慎重に検討することが求められます。

株主が多岐にわたる場合、全株式の取得が難しい

対象会社の株主が創業者だけでなく、親族や従業員、外部の投資家など多岐にわたっている場合、100%の株式を取得することが困難になるケースがあります。一部の株主が株式の売却に反対したり、連絡が取れなかったりすると、完全子会社化が実現できなくなる可能性があります。
従業員持株会が存在する場合も、交渉が複雑化することがあります

経営の自由度を最大限に高めるためには100%の持株比率が望ましいですが、全株主の同意を得るプロセスは、時間と労力がかかる難題となり得ます。

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株式譲渡制限会社における手続きの7ステップ

株式譲渡制限会社における手続きの7ステップ

日本の多くの中小企業は、定款によって株式の譲渡に会社の承認を必要とする「株式譲渡制限会社(非公開会社)」です。このような非上場会社が株式譲渡を行う場合、会社法に定められた適切な手続きを踏む必要があります。

ここでは、非上場株式を譲渡する際の基本的な手続きのフローを7つのステップに分けて解説します。

  • ステップ1:株式譲渡の承認を会社に請求する
  • ステップ2:取締役会または株主総会で譲渡を承認する
  • ステップ3:承認または不承認の決議結果を通知する
  • ステップ4:株式譲渡契約を締結する
  • ステップ5:株式譲渡の対価を決済する
  • ステップ6:株主名簿の名義を書き換える
  • ステップ7:株主名簿記載事項証明書を交付する

この流れをしっかり理解しておくことで、スムーズかつ法的に有効な株式譲渡を実現できます。

ステップ1:株式譲渡の承認を会社に請求する

譲渡制限株式を譲渡しようとする株主(譲渡人)、または株式を譲り受けようとする者(譲受人)は、会社に対して株式譲渡の承認を求める請求を行う必要があります。この手続きは、「株式譲渡承認請求書」という書面を会社に提出して行います。

請求書には、譲渡を予定している株式の種類と数、譲受人の氏名または名称、住所などを記載します。この請求が、譲渡制限株式を譲渡するための公式なプロセスの第一歩となります。

ステップ2:取締役会または株主総会で譲渡を承認する

株式譲渡の承認請求を受けた会社は、その譲渡を承認するか否かを決定するための機関決定を行います。取締役会を設置している会社の場合は取締役会の決議によって、取締役会を設置していない会社の場合は株主総会の決議によって承認の可否を判断します。

株主総会での決議は、定款に特別な定めがなければ普通決議で足りますが、譲渡承認機関を株主総会とし、かつ承認決議に特別決議を要すると定款で定めている場合は、それに従う必要があります。

ステップ3:承認または不承認の決議結果を通知する

会社は、譲渡を承認するか否かの決議を行った後、その結果を請求者に対して通知する義務があります。この通知は、原則として請求があった日から2週間以内に書面で行わなければなりません

もし、会社がこの期間内に通知を行わなかった場合、会社法上の規定により、その株式譲渡を承認したものとみなされます。

承認する場合はその旨を、不承認とする場合はその旨を記載した通知書を送付します。不承認の場合、会社または会社が指定する買取人が株式を買い取ることになります。

ステップ4:株式譲渡契約を締結する

会社の承認が得られた後、売り手である譲渡人と買い手である譲受人との間で、正式に「株式譲渡契約」を締結します。口頭での合意も法的には有効ですが、後のトラブルを避けるため、必ず契約書を作成することが重要です。

株式譲渡契約書には、譲渡する株式の種類と数、譲渡価額、代金の支払い方法と時期、クロージングの前提条件、表明保証、秘密保持義務など、取引に関する詳細な要件を盛り込みます。この段階で株式譲渡の予約をすることもあります。

ステップ5:株式譲渡の対価を決済する

株式譲渡契約書に定められたクロージング日(決済日)に、契約内容の履行が行われます。具体的には、買い手は売り手に対して、合意した譲渡対価を支払います。同時に、売り手は買い手に対して、株式を譲渡する意思表示を行い、株券発行会社の場合は株券を交付します。

この代金の支払いと株式の引き渡しをもって、株式譲渡の効力が生じ、株主としての権利が売り手から買い手に移転します。これにより、株式を譲渡する取引が完了します。

ステップ6:株主名簿の名義を書き換える

株式を譲り受けた買い手は、自分が新たな株主になったことを会社や第三者に対して主張するために、株主名簿の名義書換手続きを会社に請求する必要があります。この名義書換請求は、原則として株式取得者と譲渡人が共同で行いますが、株券発行会社で株券を所持している場合は取得者が単独で請求できます。

会社は、この請求を受けて株主名簿の記載を新たな株主の情報に更新します。この手続きを経なければ、株主総会での議決権行使などが認められないため、極めて重要です。

ステップ7:株主名簿記載事項証明書を交付する

株主名簿の名義書換が完了した後、新たな株主は、自身がその会社の正規の株主であることを証明するために、会社に対して「株主名簿記載事項証明書」の交付を請求することができます。この書類には、株主の氏名、住所、保有株式数、株式取得年月日などが記載されており、株主としての地位を対外的に証明する際の重要な証拠となります。

株主名簿記載事項証明書は株主としての地位を証明する書類の一つであり、この証明書の交付により、新たな株主は自身の株主としての地位を確認できます

株式譲渡の手続き前に確認すべき4つの注意点

株式譲渡の手続き前に確認すべき4つの注意点

株式譲渡の手続きを円滑かつ確実に進めるためには、事前にいくつかの重要な点を確認しておく必要があります。ここでは、手続きを開始する前に必ず確認すべき4つの注意点とその理由を解説します。

譲渡制限株式に該当するかどうかを確認する

まず最初に確認すべきは、譲渡対象の株式が「譲渡制限株式」であるかどうかです。日本の多くの中小企業では、会社の乗っ取り防止などの目的から、定款によって株式の譲渡に会社の承認が必要であると定めています。自社の定款を確認し、この譲渡制限の規定があるか否かを把握することが不可欠です。

もし譲渡制限株式であるにもかかわらず、会社の承認手続きを経ずに譲渡を行った場合、その譲渡は会社に対して効力を主張できず、無効となる可能性があるため、極めて重要な確認事項です。

株券が発行されているかを確認する

次に、自社が「株券発行会社」か「株券不発行会社」かを確認します。2006年の会社法施行により、定款に株券を発行する旨の定めがない限り、原則として株券不発行会社となりました。しかし、それ以前に設立された会社で定款変更を行っていない場合、株券発行会社である可能性があります。

株券発行会社の場合、株式譲渡の成立要件として株券の交付が必要です。もし株券を紛失していると、再発行手続きに時間がかかるため、事前に有無を確認し、紛失している場合は速やかに対応する必要があります。

株主の所在が不明でないかを確認する

特に100%の株式譲渡を目指す場合、すべての株主の所在が明らかになっているかを確認することが重要です。長年連絡を取っていなかったり、相続などで代替わりしたりして、株主名簿上の住所に居住しておらず連絡が取れない「所在不明株主」がいると、譲渡の同意を得るための交渉が進められません。
株主全員の同意が必要な場面で、一人でも連絡がつかなければM&Aが頓挫するリスクがあります。

このような事態を避けるため、事前に株主名簿を精査し、全株主と連絡が取れる状態にしておくことが求められます。

名義株が存在しないかを確認する

「名義株」とは、株主名簿上の株主(名義人)と、実質的な所有者(真の株主)が異なる状態の株式を指します。会社設立時に発起人の人数を揃えるため、親族や友人の名前を借りた場合などに発生します。

この名義株が存在すると、株式譲渡の際に誰が真の所有者として譲渡の意思決定を行うのかが不明確になり、深刻なトラブルの原因となります。譲渡手続きを進める前に、名義株の有無を調査し、もし存在する場合は、速やかに実質的な所有者へ名義を戻すなどの整理を行っておく必要があります。

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株式譲渡における企業価値の算定方法3種類

株式譲渡における企業価値の算定方法3種類

株式譲渡を行う際、最も重要な要素の一つが譲渡価格の決定です。その基礎となるのが「企業価値評価(バリュエーション)」であり、対象会社の株価や評価額を客観的に算定するプロセスで、企業価値の算定方法には複数のアプローチがあります。

ここでは、代表的な3つのアプローチである「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」「インカムアプローチ」の計算方法について解説します。

関連記事:企業価値評価(バリュエーション)とは?算出方法やM&Aで用いられる評価手法を解説します
https://www.willgate.co.jp/ma-column/knowledge/1391/

コストアプローチ:純資産価値を基準にする方法

コストアプローチは、会社の貸借対照表に計上されている純資産の価値を基準として企業価値を評価する方法です。具体的な計算手法には、帳簿上の純資産をそのまま評価する「簿価純資産法」と、資産と負債を現在の時価に評価し直して純資産を算出する「時価純資産法」があります。

客観的な数値に基づいて計算されるため、分かりやすく説得力がある一方で、会社の将来の収益力やブランド価値といった無形の資産が評価に含まれないという側面があります。

マーケットアプローチ:類似企業を基準にする方法

マーケットアプローチは、評価対象の会社と事業内容や規模が似ている上場企業や、過去に行われたM&Aの取引事例などを参考にして企業価値を算出する方法です。市場での客観的な評価が反映されるため、公平性が高いとされています。

代表的な手法として、類似企業の株価収益率(PER)やEBITDA倍率といった指標(マルチプル)を評価対象会社に適用する「類似会社比較法」があります。

ただし、比較対象として適切な類似企業が見つからない場合には、この方法の適用が難しいという欠点があります。

インカムアプローチ:将来の収益性を基準にする方法

インカムアプローチは、評価対象の会社が将来生み出すと予測される収益やキャッシュフローに基づいて企業価値を評価する方法です。将来性や成長性を評価に反映できる点が最大の特徴で、スタートアップ企業や成長企業の評価に適しています。

代表的な手法には、将来のフリーキャッシュフローを現在価値に割り引いて合計する「DCF(Discounted Cash Flow)法」や、将来の配当額を予測して評価する「配当還元法」があります。
ブランド力や技術力などの営業権も評価に織り込まれます。

株式譲渡の取引方法について

株式譲渡の取引方法について

株式を譲渡する際の具体的な取引方法には、主に3つの種類が存在します。
対象企業が上場しているか非上場かといった状況により、用いられる方法が異なります。

ここでは、代表的な手法である「相対取引」「市場買付け」「公開買付け(TOB)」について、それぞれの特徴を解説します。

①相対取引

相対取引とは、証券取引所などの市場を介さず、株式の売り手と買い手が直接交渉を行い、価格や数量、その他の条件を合意の上で株式を売買する方法です。非上場会社の株式は市場で取引できないため、中小企業のM&Aにおいては、この相対取引が最も一般的に用いられます

当事者間で柔軟に条件を設定できるメリットがありますが、買い手は売り手である株主と個別に交渉を進める必要があります。そのため、株主が多数いる場合には、交渉に手間と時間がかかることがあります。

②市場買付け

市場買付けとは、上場企業の株式を証券取引所を通じて通常の株式取引として買い集める方法です。TOB(公開買付け)のような特別な公開手続きは不要で、市場が開いている時間内であれば誰でも売買に参加できます。

しかし、M&Aを目的として大量の株式を一度に買い付けると、需要の急増によって株価が高騰し、結果的に買収費用が想定以上に膨らんでしまうリスクがあります。そのため、過半数以上の株式取得を目指すM&Aの実務において、この方法が用いられることはほとんどありません。

③公開買付け(TOB)

公開買付け(TOB)とは、「買付期間」「買付価格」「買付予定株数」などの条件を事前に公告し、市場外で不特定多数の株主から株式を買い集める方法です。主に上場企業の企業買収で用いられる手法であり、株主に対して市場価格よりも高い価格(プレミアム)を提示することで、短期間に大量の株式を取得することを目指します。

金融商品取引法では、買付け後の株式保有割合が一定の基準を超える場合などには、原則としてTOBの実施が義務付けられています

株式譲渡で発生する税金の種類と税率

株式譲渡で発生する税金の種類と税率

株式譲渡によって譲渡益(売却益)が生じた場合、その利益に対して税金が課税されます。課される税金の種類や税率は、株式を保有していた株主が個人か法人かによって大きく異なります

譲渡後の手取り額を正確に把握し、適切な納税手続きを行うためには、これらの税務上のルールを正しく理解しておくことが不可欠です。国税庁の指針に基づき、それぞれのケースでどのような課税関係が生じるかを解説します。

関連記事
M&Aの税金と節税方法を徹底解説【売り手・買い手別】
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【個人株主の場合】売却益に対して所得税と住民税がかかる

個人の株主が株式を売却して得た利益は「株式等に係る譲渡所得」として扱われます。この譲渡所得は、売却金額からその株式の取得費と、譲渡にかかった手数料などの必要経費を差し引いて計算します。この所得に対しては、他の所得とは合算せずに分離して課税する「申告分離課税」が適用されます。

税率は所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%の合計20.315%です。
譲渡益が出た場合は、原則として翌年に確定申告を行い、納税する必要があります。退職金などとは別の計算となります。

【法人株主の場合】売却益に対して法人税がかかる

法人が保有する株式を売却して得た利益は、その法人の益金として扱われます。個人のように分離課税とはならず、本業の事業利益など他の所得と合算された上で、法人税が課税されます。 法人税の実効税率は、会社の規模や所得金額によって異なりますが、一般的に約30%から35%程度です。

会社の全体的な損益状況によっては、株式の売却益が出ても他の事業の損失と相殺されて納税額が発生しない場合もあります。 なお、株式の譲渡は有価証券の譲渡にあたり、消費税は非課税取引となります

株式譲渡における会計処理と仕訳例

株式譲渡における会計処理と仕訳例

株式譲渡が行われた際、売り手側と買い手側ではそれぞれ異なる会計処理が必要となります。取引の実態を正確に帳簿に記録するため、適切な勘定科目を用いて仕訳を行うことが求められます。

ここでは、売り手と買い手それぞれの立場から、基本的な会計処理と仕訳例を解説します。

【売り手側】株式を売却したときの仕訳

売り手側の会社は、保有していた株式を売却した際の会計処理を行います。仕訳の例としては、まず貸方に保有株式の帳簿価額を計上し、借方に受け取った対価を記入します。このとき、売却価額と帳簿価額との差額は、売却価額の方が大きい場合は「有価証券売却益」として貸方に、小さい場合は「有価証券売却損」として借方に計上します。

これにより、取引による損益を正確に財務諸表に反映させます。

【買い手側】株式を取得したときの仕訳

買い手側の会社は、取得した株式を資産として計上する会計処理を行います。議決権の保有割合に応じて、「子会社株式」や「関連会社株式」、「その他有価証券」といった勘定科目を用いて借方に仕訳します。支払った対価は貸方に現金預金などとして計上します。

買収価格が対象会社の時価純資産額を上回る場合、その差額は「のれん」として無形固定資産に計上されます。のれんは、対象会社のブランド力や技術力などの超過収益力を表し、一定期間で償却されます。
買収後は連結決算の対象となることもあります。

関連記事
買収時の仕訳(会計処理)とは?償却方法やのれんの扱い、注意点を解説
https://www.willgate.co.jp/ma-column/knowledge/3558/

株式譲渡のM&A成功事例5選

株式譲渡によるM&Aは、原則的に子会社化しグループ企業の傘下に入る形で行われます。
買い手、売り手がともに目的を果たすウィンウィンの関係を築けることが、成功事例の条件と言えます。

以下の記事でもM&A事例を紹介しています。

M&A失敗事例15選!企業買収で失敗しないための対策も解説
https://www.willgate.co.jp/ma-column/case-study/1456/

大企業・中小企業、業界別のM&A事例40選
https://www.willgate.co.jp/ma-column/case-study/2030/

1. デジタルクエスト×トレジャー・ファクトリー

トレジャーファクトリーは、首都圏や関西圏で総合リユース業で活躍している会社です。家具、家電をはじめ、ファッションやブランド品、ゴルフ用品をはじめとするスポーツ、アウトドアなどのレジャー関係などでリユース店を中心に展開しています。ファッションレンタルや不用品買取などを一体化した引越しサービスなどにも進出し、8つの業態で約190の店舗を展開しています。

同社は、新しい市場でのニーズに対応するためのM&Aに2010年頃から取り組んでいます。自社のECサイトの運営にもあたっていた同社は、システム開発会社であるデジタルクエストの株式譲渡契約に合意し、実現させました。事業拡大に向けた自社の開発能力などの強化を目指したM&Aの事例です。

参考 https://br-succeed.jp/content/agreement/post-823

2. COMBO×テクノモバイル

COMBOはVRやARの分野で、システムの受託開発に携わってきました。しかしコロナ禍で業績に陰りが見え、従業員の雇用維持にも不安を抱えていました。買い手側のテクノモバイルは、モバイルアプリの分野でWebシステムの開発を行ってきた会社です。技術力の高いエンジニアを獲得し、地方への事業拡大を目論んでいました。

両者の利害は一致し、2020年に株式譲渡によるM&Aが実施されました。テクノモバイルはCOMBOの株式の9割を取得し、子会社化しました。
テクノモバイルはエンジニアの確保により企業力を強化できました。COMBOは、もともと高い秘術力と大規模受注で安定した業績を築いていたテクノモバイルに子会社化されたことにより、従業員の雇用安定とモチベーション向上を実現しました。

参考 https://br-succeed.jp/content/agreement/post-3127

3. FLP×富士運輸

富士運輸は、大型トラックを用いた長距離輸送分野で広く事業展開しています。グループとして、2,000台以上のトラックと2,300名を超える従業員を抱え、年商393億を叩き出しています。2021年2月に、富士運輸は株式譲渡によってFLPを子会社化しました。売上や市場シェアの拡大、都心へのアクセスに優れた整備工場の獲得がねらいでした。

FLPはトラックの整備や中古車販売で事業展開していた会社です。同社は代表者が高齢化していましたが後継者を見つけられず、会社清算を考えていました。3年間、大手の物流企業へのM&Aを模索していましたが成立せず、M&A仲介会社を利用して富士運輸とのトップ会談での契約にこぎつけました。

後継者不足による事業承継を、M&A仲介会社を介した株式譲渡によって実現した事例です。

参考 https://br-succeed.jp/content/agreement/post-4149

4. GHインテグレーション×フーバーブレイン

SES(エンジニア派遣事業)を運営する企業、GHインテグレーションは、50人を超えるエンジニアの給与等の労働条件改善を課題としていました。対して5GやIoTなどでの対応を迫られていたのが、企業向けのサイバーセキュリティやITのシステム構築、働き方改革の支援などに携わっていたフーバーブレインです。

労働条件の改善とそれに伴う事業拡大をねらう売り手と、新技術の対応のために優秀なエンジニア人材を求めていた買い手企業の思惑は一致、2021年3月の株式譲渡によるM&A実施に至りました。株式取得対価に株式交換の時価を加えて2億6,640万円の案件でした。

売り手、買い手双方の経営課題の解決を目途とする株式譲渡による子会社化の事例です。

参考 https://br-succeed.jp/content/agreement/post-5980

5. 須田製作所×イワブチ

イワブチは、電力や通信関係、鉄道用の各種電気架線金物やコンクリートポールなどでの製造販売を事業とする専門メーカー企業です。架線金物の事業における営業や開発、資材調達から生産、配送に至る事業プロセスの合理化を課題としていました。

この買い手のニーズに応えたのが、通信用の金物などの製造販売に携わっていた須田製作所です。同社は無線に関連する装置設計や製作のノウハウも持ち、イワブチはこの面での新規事業開拓も可能となります。2022年1月、須田製作所はイワブチに株式を譲渡、議決権所有割合を60.62%とし、子会社化されることになりました。

事業の拡充を目指す買い手が、ニーズに合う売り手企業の株式を取得して子会社化した事例です。

参考 https://www.nihon-ma.co.jp/news/20220118_5983-1/

まとめ

株式譲渡は、M&A手法のなかでも広く活用されており、会社の経営権を包括的に第三者へ承継できます。
売り手は創業者利益を確保しやすく、買い手は短期間で事業を拡大できるといったメリットがあります。
一方で、売り手は会社の一部だけを売却できない、買い手は簿外債務を引き継ぐリスクがあるなど注意点も存在します。

株式譲渡を成功させるには、法務、税務、会計の専門知識が求められるため、専門家と連携しながら慎重に手続きを進めることが不可欠です。

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ウィルゲートが目指すのは、売り手様、買い手様、双方に納得感のあるM&Aです。M&Aがお客様の目的やご希望に合致しない場合、無理にM&Aをすすめることは絶対にありません。

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株式譲渡に関するよくある質問

Q. 株式譲渡は個人間でも可能ですか?

はい、可能です。株主が個人であれば、譲渡先も個人である個人間の株式譲渡は問題なく行えます。ただし、会社が株式に譲渡制限を設けている場合は、会社の承認手続きが必要です。
また、譲渡によって利益が出た場合は、譲渡した個人に譲渡所得税が課税されるため、確定申告を行う必要があります。

Q. 会社を譲渡した場合、従業員の雇用契約はどうなりますか?

株式譲渡では株主が変わるだけで会社自体は存続するため、従業員との労働契約は原則としてそのまま新しい株主に引き継がれます。給与や役職といった待遇にも直ちに影響はありません。
ただし、M&A後の新しい経営方針により、将来的には社員の待遇や組織体制が変更される可能性はあります。

Q. 赤字や債務超過の会社でも株式譲渡はできますか?

はい、可能です。赤字や債務超過であっても、独自の技術やノウハウ、将来性など買い手にとって魅力があれば株式譲渡は成立します。
買い手は債務も引き継ぐことになりますが、事業再生を目的としたM&Aの対象となる場合があります。
清算するよりもメリットがあると判断されれば実行されます。

Q. 株式譲渡の価格はどのように決まりますか?

株式譲渡の価格は、専門家による企業価値評価の結果を参考に、売り手と買い手の交渉によって最終的に決定されます。
企業価値は、会社の純資産、収益性、将来性、類似企業の市場評価などを総合的に勘案して算出されます。
オーナー社長の意向も価格に影響を与える要素です。

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