M&Aは、企業として大きく成長するための効果的な手法の一つです。しかし一歩間違うと会社の存続に関わる大損害につながる可能性もあります。
M&Aの失敗事例からその要因をとらえ、対策を講じることで、失敗の確率をぐっと下げられるように、この記事ではM&Aの失敗事例について紹介します。
\成約例や支援の特徴・流れを紹介/
まず、M&Aにおける失敗とは何でしょうか?
その答えはM&Aをなぜ行うのかの裏返しにあります。
M&Aは事業の拡大や新規事業への参入、そのためのノウハウを入手したりコストカットなどの効率化をしたりすることが目的です。これらの目的が達成されない場合を失敗とすれば、大きく3つのケースが考えられます。
M&Aはいわば買い物ですから、「高い買い物」をすればそれは失敗です。売り手企業が魅力的であるほど競合する買い手同士が値を釣り上げ合って、どうしても買収価額が高くなってしまい、買収後の収益がそれに見合わなくなってしまうケースがあります。また、企業価値に関する調査不足による思い込みや、買収を急ぐ気持ちから、実態より高すぎる価額をつけてしまうこともあり得ます。もちろん、買収後の経営統合がうまく行かないなど、経営が思ったように進められずに結果として利益が上がらないことも失敗といえます。
M&Aにおいては、買い手企業はデューデリジェンスを行い、売り手企業の企業価値を調査します。デューデリジェンスは専門家の力も得て、経営状況のチェックはもちろん、法務上や財務上のリスクなどもつぶさに調査します。しかし、このデューデリジェンスが不十分な場合や、帳簿上などでは見えにくい訴訟関係のリスク、粉飾決算などの会計不正がある場合、その負債は買い手企業にのしかかってきます。売り手企業が本来持っていた企業価値は相殺されて、目論んでいた利益は上がらなくなってしまうのです。また法務上のリスクなどを抱えていた場合、企業イメージを毀損されることも大きな損害となり得ます。
M&Aにおける企業の買収価額は純資産額だけで決まるものではなく、売り手企業が持っている技術力などが無形固定資産として計上されます。この買収価額と純資産額の差を「のれん」と呼びますが、これは評価の基準が明確にあるものではなく、買収後に初めて顕在化します。逆にいえば、買ってみたら思ったほどのものではなかったということが起こり得るわけです。こののれんは、貸借対照表上は資産となりますが、その価値が見込みよりも少ないと評価された段階で、減損として損失を計上することになります。M&Aの規模によっては営業利益を圧迫しかねない多額の減損損失が出る場合もあり、大きな失敗ととらえられます。
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M&Aは大きな経営の転換点となるものですので、そこには自ずからリスクが存在します。そのリスクをきちんと避けきれなかった場合、M&Aは失敗に陥ります。どんなM&Aであっても失敗のリスクをはらんでいますから、つまずいた例も多々見られます。ここではそうした失敗の事例からケーススタディに取り組んでいきましょう。
規模の大きな企業ほどM&Aも大掛かりなものになりますので、その準備は周到に行われます。失敗など起こり得ないと思えるほどに慎重であっても、場合によっては頓挫します。名だたる大企業でもそうした失敗例は多くあり、M&Aの規模が大きいだけに損失も多大な額にのぼることも珍しくありません。
DeNAといえば、プロ野球の球団オーナーであったり、社長が政府の経済政策諮問の委員会メンバーであったり、今や日本のトップ企業です。ゲームアプリを本業とする同社は、2014年iemoとペロリというキュレーションサイトの運営会社を50億円で買収しました。前者は住居系の情報サイト、後者は女性向けのファッッション情報サイトを運営しており、これらを含めた10のサイトの運営に乗り出したのです。
ところが、この内、ヘルスケアや医療関連の情報サイトであったWELQなどのサイト内で、根拠不明な情報や、他サイトの情報の無断転載などがあり問題となりました。またクラウドソーシングでの外部ライターに対してリライトをそそのかすような発注実績があったことなども明らかになり、最終的に社長による謝罪会見とともに10サイトの閉鎖を余儀なくされました。
新規事業開拓を目指したM&Aが、傘下の企業のコンプライアンス意識に対してしっかりしたガバナンスを発揮できなかったPMI(経営統合)失敗による事例です。
大手の住宅設備メーカーであるLIXILは、2013年、ドイツの水栓器具メーカーとして知られるグローエ・ドーン・ウォーターテックを買収しました。買収価額は約4,000億円で、国際市場に販路を拡大するのがねらいでした。このとき、LIXILはグローエの子会社だったジョウユウという中国企業も傘下に収めました。
ところが、2015年にこのジョウユウでの不正な会計処理が見つかりました。これに伴いLIXILの子会社となっていたグローエが破産手続きに入り、LIXILもジョウユウの株式簿価や債務保証に関する負担を強いられます。その損失額は608億円に上りました。
このM&Aでは、M&A対象企業の子会社に至るまでのデューデリジェンスが十分ではなかったことが指摘されています。多国籍企業を買収することに対してリスクの認識が甘かったといわざるを得ない事例です。
キリンは日本のビールメーカーとしてよく知られています。日本国内では人口減少などもあって市場の縮小傾向が問題となっていた中、これを打破する手段としてキリンは海外企業のM&Aを選択しました。2011年、キリンはブラジルで第2位のシェアを誇るスキンカリオールを約3,000億円で買収しました。この当時ブラジルは年10%程度の高い成長率を見込まれており、キリンは販路拡大の期待を持ったのです。
ところがその後ブラジルの景気は悪化に転じ、2015年にはキリンは約1,100億円の減損損失を計上せざるを得ず、473億円もの巨額の赤字を計上するに至りました。ブラジルの子会社はこの2年後にはオランダのハイネケンに、わずか770億円で売却されてしまいました。
事業拡大をねらったM&Aでしたが、当初見込んでいたような景気拡大が進まなかったことが原因での失敗でした。社会的な要因で目論んだ通りの経営実績が上げられないことはやむを得ない側面もありますが、市場調査の徹底などで回避できる可能性もあった事例です。
製薬会社も今やグローバルに展開されていますが、そんな一つである第一三共は、国際的なM&Aとして2008年インドのジェネリックメーカー、ランバクシー・ラボラトリーズを約4,900億円で買収しました。ところが買収のためのTOBの真っ最中にランバクシーに問題が発覚しました。アメリカのFDAが、ランバクシーの2つの工場で抗生物質の取り扱い、製造に使用している器具の洗浄、生産や品質の管理において問題があるとして30種を超える医薬品の輸入禁止措置を発表したのです。
当時売上高の3割をアメリカに依存していたランバクシーは大打撃を受け、株価はTOB価格を7割近く下回り、第一三共に3,595億円の評価損を生じさせました。第一三共は2009年の3月期連結決算で2,154億円の赤字を計上するに至りました。
このM&Aでは、元株主による情報隠蔽があったともいわれていますが、デューデリジェンスの不足は否めません。M&Aにおける売り手企業の法務上のリスクなどもしっかり把握するデューデリジェンスの重要性が実感できる事例といえます。
ダイナブックでノートパソコンの先鞭をつけた東芝も、M&Aで手痛い失敗を経験しています。2006年、東芝はアメリカにおける原発開発の大手企業ウェスチングハウスに対するM&Aを実施しました。重電部門の事業拡大を目途とする一大M&Aで買収額は6,600億円に及びました。
しかし、ご存知の通り2011年、東日本大震災に伴う福島第一原発の大事故により原発事業は大転換期を迎えます。原発の安全性への疑念が高まり、世界的に開発事業は軒並みストップしてしまいました。そのうえ、ウェスチングハウス社とのPMIにおいても、不正会計や事業における多額の損失が発覚します。東芝はM&A時に計上していた3,300億円ののれんのうち、実に2,600億円もの減損損失を生じさせてしまいました。
M&Aにおいて、綿密に計画した事業計画が、その期間内の社会的事象や業界のトレンドの変化によって台無しになってしまった事例です。ここまで極端でないまでも、買収企業の業績悪化は、M&Aの大きな失敗要因となります。
総合商社として有名な丸紅は、M&Aを積極的に進めていましたが、2012年に行った買収はその中でも巨額なものでした。アメリカの穀物会社大手のガビロンの買収にあたって丸紅が支出した金額は、約2,800億円にも及んだのです。これは、ガビロンのもつ拠点を中軸とするアメリカでの穀物の集荷事業の拡大、そしてその販路としての中国を筆頭とするアジアの市場開拓が目的でした。
当時すでに、丸紅は中国向けの大豆輸出のシェアでトップを走っていました。その丸紅による巨額の買収案件は、中国政府に国内市場における丸紅の寡占化を警戒させ、中国国内での両者が一体となった事業が禁止される結果を招きました。そのため、中国市場での業績予測は当初計画から大きく制限されることになり、このM&Aにおけるシナジー効果を大きく損ねました。丸紅は1,000億円を見込んでいたガビロン買収ののれんに対して、500億円の減損損失を計上するに至りました。
特定の国における事業上の危険要素をカントリーリスクといいます。この事例は、中国における事業拡大に対するカントリーリスクを過小に評価していた失敗例といえます。
創業者松下幸之助の名前を関した社名をブランド名に変更したパナソニックは、国内最大手の家電メーカーです。2009年三洋電機の買収を行ったM&Aは、年間売上高11兆円以上の巨大電機メーカーの登場を予期させるものでした。パナソニックは5,180億円の巨額ののれんを含む、6,600億円の巨費を投じて買収を実施しました。のれんがこれほどに大きかったのは、三洋電機の持つ太陽電池やリチウムイオン電池の開発に関わる技術力の将来性を見込んでのことでした。パナソニックは、この事業分野で世界シェアを切り崩すことを考えていたわけです。
ところが、円高などの為替環境の変化などにより、三洋電機の民生用リチウム電池の事業価値は低落を続け、業績は悪化の一途をたどりました。追加投資などを含めて8,100億円以上をかけて三洋電機を完全子会社化したパナソニックでしたが、経営統合の努力も虚しく、2013年度の決算では6,000億円以上の評価損を計上してしまいました。5,000億円を超えるのれんも、結局そのほぼ半分、2,500億円が減損損失として処理されています。
M&AはPMIの段階に入って初めてその真価を問われることになります。この事例では、見事にあてが外れてしまったわけで、事業環境の変化がM&Aを失敗に導くことがあると教えてくれます。
総合エレクトロニクスメーカーとして著名な富士通は、1990年、以前から業務提携関係にあったICLにM&Aを実施しました。ICLはイギリスの国策会社で、IT事業分野ではよく知られた会社でした。ヨーロッパ市場での事業拡大を模索していた富士通は、資金面で苦境に陥っていたICLに株式譲渡を持ちかけ、1,890億円でその80%を手に入れました。この買収で富士通は電算機の分野で世界シェア第2位となりました。当初は事業も好調で、1998年にはICLを完全子会社化し、さらにドイツの企業なども買収しヨーロッパでの事業を拡大していきました。その累積投資額は3,500億円以上にのぼったといわれています。
しかしその後、業績は悪化し始め、あっという間に赤字が膨らんでいきました。ついに2007年には、累積投資額に迫る2,900億円もの評価損を計上する結果となりました。
この事例はM&Aの最終評価を下すには、長いスパンでの投資行動全体を見る必要があることを示しています。M&A実施から17年を経ての巨額損失計上という事実から、累積的に損失が重なっていくことの恐ろしさを肝に銘じておく必要があります。
今やモバイル通信は超成長分野です。そのトップランナーとして、業界を牽引しているNTTドコモですが、その急激な事業拡大ゆえのM&Aの失敗事例があります。NTTドコモは、IT業界の急拡大に合わせるように国際的なM&Aに先鞭をつけました。
2000年、オランダのKPNモバイルにM&Aを実施、その投資額は4,000億円でした。驚くことに、NTTドコモは同年にもう一件の案件を成立させます。イギリスのハチソン3GUKに対するM&Aがそれで、ここでも1,900億円もの多額の投資を行いました。矢継ぎ早の買収劇は続きます。翌年2001年にもNTTドコモはM&Aを実施、今度はアメリカのメジャー携帯電話企業、AT&Tワイヤレスが対象でした。その買収額はなんと1兆2,000億円、破格の買収価額は当時大変な話題となりましたので、記憶している方もいらっしゃるでしょう。
グローバルなモバイル通信企業としての飛躍を目指したこれらのM&Aでしたが、結果的にはすべて事業に行き詰まり、撤退を余儀なくされました。その損失額は1兆5,000億円にも上り、投資額の大部分を失った形で終わりました。
この事例はあまりにも巨額すぎてなかなか参考になりにくいところはありますが、やはりM&Aによるシナジーを見誤り、事業計画が頓挫したことが大きな要因です。急激な拡大路線に乗ったM&Aは、どうしても企業価値やシナジーなどの評価を甘く見積もってしまいやすいことを押さえておきたいですね。
不動産企業大手の三菱地所は、M&Aで大きな損失を出した苦い経験があります。1989年、まさにバブル経済の絶頂期、三菱地所はニューヨーク、マンハッタンの象徴的な高層ビル、ロックフェラーセンターの買収を実施しました。買収価額は2,200億円でした。ロックフェラーセンターは巨大なクリスマスツリーが立つことで有名なランドマーク的な建造物で、日本企業によってこのビルが買収されたことは当時アメリカ国民に強い反感を与えました。いわゆるジャパンマネーによる世界侵略の一幕として意識されたこともあるでしょうが、アメリカを巨大市場としてビジネス面で進出を図っているという日本企業のねらいの象徴となったことも一因だと思われます。しかしその後バブルは崩壊し、1995年にはロックフェラーセンターの運営会社が負債を抱えて倒産します。結果、三菱地所はこのM&Aを清算することとなり、大半の物件を放棄、1,500億円の損失を計上することとなりました。
バブル景気の頃は、日本企業の積極的な海外投資が多く行われました。しかし、バブル崩壊という大きな経済市況の変化による事業の急激な悪化から、投資の引き上げを決断せざるを得ない例は多く見られました。
新生銀行は、2004年、信販会社のアプラスのスポンサーとして名乗りを上げます。アプラスの財務状況が悪化していたことがその原因です。具体的には、新生銀行がアプラスの第三者割当増資を引き受けて、アプラスの普通株式の67%を350億円で取得しました。そのほか、アプラスのメインバンク、UFJ銀行から優先株式を取得しました。その対価は300億円で、投資額総計は650億円に上りました。その後も新生銀行は優先株式を受けるなどしてM&Aを進めました。
アプラスの業績改善に向けた努力を続けた新生銀行でしたが、2010年の法改正で急速に業績は悪化しました。いわゆる過払い金訴訟の急増の影響を受け、アプラスの業績は悪化の一途をたどります。最終的に新生銀行が計上した減損損失は1,010億円に達しました。
M&Aにおいて買収後の訴訟リスクは非常に大きなものです。この事例では法改正によって想定外の訴訟リスクにさらされたわけですが、防ぎうる訴訟リスクは確実に潰しておかなければなりません。
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中小企業におけるM&Aの失敗事例は、そもそもM&Aが成立しないケースがほとんどです。中小企業の場合、経営者の個人的な事情や思いなどが影響することも多く見受けられます。ここでは、そうした中小企業によくある失敗例を見ていきます。
地域に密着したサービスを売りにしていた運送業者であるA社は、後継者不在による事業承継の不安からM&Aを決断しました。M&A仲介業者に依頼すると、地域では優良な企業と目されていた同社には引き合いも多く、同地域内の買い手企業とのマッチングがすぐに決定しました。A社の保有株式の100%譲渡を条件としたM&Aは、基本合意の締結にこぎつけました。
しかしA社の代表は、話が進むに連れ、会社の譲渡に疑問を持ち始めてしまいました。その結果、譲渡の条件ですでに合意していたにもかかわらず、その合意を違えて条件の見直しを要求してきました。このA社の態度の急変に買い手企業は強い難色を示し、ついにはA社を信頼できないとしてM&Aの交渉決裂を選択するに至りました。A社はM&Aの機会を逃し、高齢だった代表が亡くなると、社内体制の弱体化もあって廃業に追い込まれました。
M&Aの交渉が進んでいく中で、会社への愛着から売り惜しんでしまう経営者は少なくありません。しかしM&Aは信頼関係に基づく合意によってのみ成立するわけですから、個人的な思いなどでその合意を違えることはあってはならないのです。
新規事業の開拓に失敗し、高騰する人件費なども相まって業績が低下していたB社は、資金繰りの悪化に見舞われ苦しんでいました。同社の副社長は知己の弁護士に相談、M&A仲介会社を紹介されました。仲介は功を奏し、スポンサー候補が複数示されました。そのうちの一つがM&Aに高い関心を示し、この副社長と面談する運びとなりました。
しかしここで問題が起きます。B社の社長が、自分に一言もないままに話が進んでいることに気づいてしまったのです。頭越しの交渉もさることながら、件の副社長は社長の弟でもあったため、肉親からの裏切りと感じて激怒しました。社長は副社長を解任、M&Aの交渉も即時打ち切りとしてしまいました。B社はこの兄弟のトラブルを受け、会社としての信義を社員から疑われ退職者が続出しました。その結果、事業規模の縮小を余儀なくされ、ついには廃業となりました。
企業内で内紛が起き、企業としての価値を大きく損じてしまうことは中小企業ではまま起こることです。この事例では、そうしたことがM&Aにも大きく影響し、ひいては会社の命運にも関わってくることを示しています。
会社の代表者が高齢化し、事業承継にも問題を抱えたC社は、M&Aによる生き残りを考えていました。しかし日々の業務に追われ、金融機関からの借り入れを重ねてやりくりする状況の中、事業承継の課題を抱えたまま業績は悪化していきました。会社の業務が低調になる中、C社は弁護士への相談を決断しました。
弁護士による買い手企業探しは功を奏し、いくつかの候補が挙がりましたが、そんな中でも業績は悪化し続けました。企業としての活気を失ってしまったC社に対して、候補の企業は具体的な話を避けてしまい、M&Aが成立することはありませんでした。
もしもC社がもう少し早く、企業としての未来を残している段階でM&Aを具体的に進めていれば、結果は変わっていたでしょう。M&Aでは企業としての売り時を失しないことが重要であることを示す事例です。
D社は後継者の不在に悩んでいました。取引相手の金融機関から紹介を受け、M&A専門の仲介業者に依頼し、M&Aに向けた具体的な動きを開始しました。仲介会社の対応は速く、4カ月という短期間のうちに買い手企業とのマッチングが行われました。基本合意書を作成し、最終契約に向けた具体的な交渉へと順調な進捗を見せていました。
しかしここで大きな問題が発生しました。このM&Aに関する情報が広く知られてしまったのです。原因は当のD社の行動にありました。代表が再三にわたり注意されていたにもかかわらず、最終契約を待たずにD社の従業員は取引先の一部も含めた関係者にM&Aの進行を漏らしていました。しかも買い手企業の名前を明らかにしてしまっていたのです。この情報漏えいに対して買い手企業は一気に態度を硬化させ、D社を信用できないとして交渉打ち切りを通告しました。
M&Aは、高度な経営判断に影響するものであり、その情報は厳に守られなければなりません。この事例では、売り手側がそうした情報に関する守秘の重要性を理解せず、不用意に情報を取り扱ったために起きたものです。
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M&Aは売り手側も買い手側もそれぞれの思惑を持って行うものですが、どちらも失敗したいと考えることはあり得ません。それでも失敗が起きるのは、その思惑ゆえにずれが生じるからだといえるでしょう。ここではその要因について、買い手側、売り手側、それぞれの視点で考えていきます。
買収側にとってはM&Aは「買い物」です。日常の買い物でも商品の見込み違いや買ってみてからの認識とのずれなど、「失敗」することがありますね。M&Aにおいては買った相手はビジネスパートナーとなるわけですから、失敗したと思っても買い直すことなどはできません。失敗を未然に防ぐための対策は極めて重要です。
M&Aにおけるゴールとはなんでしょうか?新事業の開拓や事業や販路を拡大することが目的となるはずです。ところが、M&Aを実施すること自体が目的化してしまうことがまま見られます。とにかく会社を大きくしたい、のような経営ビジョンのないM&Aは、企業経営としては失敗に終わることが多いものです。M&Aは、経営ビジョンを具現化する手段にすぎないことを忘れてはいけません。
M&Aにおいて、なぜM&Aを行うのか、といった基本理念から始まる戦略を立てておくことは極めて重要です。特に買収対象となる企業にどのような要件を求めるのかを決めておくことが必要です。これを明確にしないまま、M&A仲介会社などを通じてリストアップされた買収企業から選択しようとすると、予算面や企業規模、事業内容などで不適切な企業をなんとなく決めてしまいかねません。こうした買収企業の選択を誤っても、M&A進行段階では気づきにくく、M&A後に多くの経営課題に突き当たることになります。
PMI(Post Merger Integration=経営統合)は、M&A後に行われる重要なプロセスです。買い手企業に取り込まれた売り手企業との間で、経営手法、企業風土、業務運営などの多様な側面でのすり合わせが必要になります。M&Aにあたってこのプロセスを意識せずに進めたために、あわてて取りかかって現場に混乱を与えてしまい、結果的にPMIが予定通り進まなかったり、最悪の場合には頓挫してしまったりします。こうなると、M&Aで期待していた通りのシナジーは期待できなくなります。シナジーへの期待が大きかった場合には、買い手企業自体が業績悪化に陥る可能性さえあるのです。
M&Aでは買収後は買い手企業が経営責任を追うことになります。しかし実際には、買収された企業が実務をそのまま引継いで業績が悪化してしまうようなケースがあり、その責任の所在が曖昧になることが見受けられます。海外などでは、買収後もそのまま買収された企業の経営陣に経営を任せてしまい、買収前の放漫な経営が継続してしまって破綻に至るようなケースも散見されます。こうした事態を避けるためにもPMIをしっかりと行ったうえで、経営戦略の見直しが必要になります。
M&Aで買い手側が特に慎重を要するのがデューデリジェンスです。売り手企業の経営や財務状況、リスクの有無などを調査するデューデリジェンスが不十分だと、M&A後にさまざまなトラブルが顕在化して、買い手側の経営自体を圧迫してしまいます。そうなればM&Aはしない方がよかった、となってしまうわけです。貸借対照表など帳簿に現れることはもちろんですが、簿外債務や外部企業等への信用保証の有無、訴訟などの法務リスクの有無などは特に見落としやすいポイントになります。また、経営状態などは市場の動向にも左右されますから、売り手企業の業績などがきちんと確保できるかどうかも見極める必要があります。
売り手企業に値札はついていません。その企業価値は買い手企業の思惑などによって大きく左右されます。いわゆるのれんとして、純資産額では測れない資産価値をどの程度認めるかが重要になります。ところがM&Aに対する過度の期待があると、こののれんを過剰に評価して、高すぎる買収価額を設定してしまうことがあります。これはM&A後に大きな負担として経営にのしかかってきますし、適切な課価額との差が大きすぎれば、減損損失として計上し大きな赤字を生じさせる結果を招きます。また長く取引をした相手が買収対象である場合など、なんとなく大丈夫だろうという根拠の薄い自信に基づいて、買収価額が高めに設定される傾向があるので注意が必要です。
売り手企業にとっては従業員の雇用の確保は重要な課題です。一般にM&Aにおいては従業員も経営上のリソースとして雇用継続されます。買い手企業としては、M&Aのシナジーを発揮する重要なファクターとしてこの人材の有効活用が求められます。ところが買収前の先行きへの不安や、PMIにおいて十分なフォローができなかったことなどが要因となり、従業員が想定外の離職を選択してしまうことがあります。特にシナジーの鍵を握るようなキーパーソンがこの道を選択してしまうと、買い手側には大打撃となりかねません。M&Aにおいては売り手企業のブランド力やノウハウ、そして人的リソースまでが重要な資産として引き継がれることを忘れてはいけません。
M&Aには高度に専門的な経営知識や財務、税務、法務に関する知識と経験が求められます。こうした点で重要なサポーターとなるのがM&A仲介会社やFA(ファイナンシャルアドバイザー)、弁護士、税理士、といった専門家たちです。M&Aを考える際、多くはこうしたM&A仲介会社などに依頼するわけですが、これで安心とばかりに任せっきりにしてしまうケースが見受けられます。しかし、こうした専門家たちが、常に売り手企業やその業界について精通しているとは限りません。もしも不得手な分野の依頼であれば、売り手企業の企業価値を見誤ったり、不適切な手法を用いて誤った結論を導いてしまったりするかも知れません。そもそも手数料を目当てとして、より高い買収価額を設定するなど、真摯に対応しない不心得者がいないとも限らないのです。買い手としては、自社内にもM&Aを推進するチームを編成し、適切にM&Aが進められるように図ることが望まれます。
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売り手側にとってM&Aの失敗は、おおむね交渉の失敗といえます。買い手がいればM&Aが成立するかといえば、そうではありません。交渉のさまざまな過程の中で、買い手企業とのコンセンサスの形成に失敗して、M&Aの交渉そのものが決裂することは少なくありません。また仮にM&Aがうまくいっても、その後にさまざまなトラブルが発覚すれば、情報の隠蔽や虚偽報告などの責任を問われることも考えられます。ここではそんな売り手側の失敗要因について見ていきます。
日常の買い物で、買い手は値引き交渉できても売り手が値を上げるのは難しいのと同じで、M&Aではどうしても買い手企業にイニシアチブがあります。だからといって売り手側がいいなりに譲歩していては条件は悪くなる一方です。結果的に売り手企業内に不満が蓄積し、内紛が引き起こされることも考えられます。実際にそうした内紛が原因となって、交渉が決裂するケースも見られます。
M&Aにおいては、株式譲渡というスキームが選択されることがよくあります。この場合売り手側の所有株式について、買い手側がその一部、または全部を買い上げることになります。ところが売り手企業側の株券そのものや株主の所在が明らかになっていないために、交渉が滞るケースがあるのです。こうなるとその所在の調査には大変な労力を要します。中小企業などではそもそも株主名簿が存在しない場合や名簿が正しく更新されていない場合などがあり、さらに調査を難しくすることがあります。
会社におけるさまざまな会議の議事録は、企業の事業の動向を把握する重要な資料となります。買い手側がデューデリジェンスの一環として、議事録の提示を求めるのはよくあることです。しかし、この際に議事録は作っていないとなると、役員登記していないと判断され売り手企業の信頼を大きく損ねます。これは場合によっては交渉決裂の要因ともなります。「株主総会議事録」や「取締役会議事録」は特に重視されます。M&Aに際しては司法書士など専門家に依頼してきちんと整備するよう図ることが肝要です。
買い手企業側は売り手企業に、さまざまな資料を提示するように求めてきます。M&Aのシナジーを明確に判断するためにも、売り手側の経営の内情を知ることは重要だからです。これらの資料提示に速やかに応じられないとなると、売り手側の誠実さを疑われかねません。買い手側の要望に可及的速やかに応じることは誠実な交渉姿勢の第一歩といえます。またM&Aに関する情報は極めてデリケートですので、慎重に扱われる必要があります。しかし売り手企業としては、事業の継続をアピールしようとこの情報を外部に知らせてしまうことがあり得ます。こうした情報漏えいも売り手側の誠実さを疑わせる大きな要因です。さらに交渉途中で合理性のない条件変更を申し出ることも不誠実な対応の一つです。誠実さを欠く対応は、買い手の売り手に対する信頼を失わせ、交渉そのものを断念する可能性があることは容易に想像できるでしょう。
買い手企業はデューデリジェンスにおいて、簿外債務など表面化しにくいリスクの調査を入念に行います。これはそうしたリスクがM&Aの成功そのものを左右する重大なものだと認識しているからです。売り手としては簿外債務や他社の債務保証、デリバティブの含み損などリスクとなるものは作らないようにすることが最善です。こうした簿外債務のリスクを持っているだけでも、売り手企業の信用は大きく損なわれかねません。
M&Aは長丁場の交渉になります。短くて3カ月、長くなると1年を超えることも珍しくありません。売り手としては、M&Aで先行きの見通しがついたように錯覚して、本来の事業に身が入らなくなってしまい、業績を落とすことがままあります。こうなれば企業価値も低下しますし、最悪の場合、買い手企業の要求を満たせなくなり交渉断念ということも起こります。M&A成功のためにも、業績の維持は必須の企業課題ととらえる必要があります。
会社の経営者や株主と業務を執行する役員の意思が一致していることは、いかなる事業においても必須の要件です。M&Aにおいてもそれは変わらず、特に交渉途中での意思の不統一の露見は、売り手企業の信用にも関わる事態です。株式を譲渡しようとしても株主の同意が得られなければ、交渉は断念せざるを得ません。売却に失敗した売り手企業は、難しい経営を継続せざるを得ず、破綻に至ることも考えられます。
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M&Aにおける失敗の事例とその要因を見てきました。失敗しないポイントは、「同じ轍を踏まない」ということに尽きます。ここでは注意するポイントを6つに絞って解説します。
なぜM&Aをするのか、企業の経営戦略として明確にすることが第一です。新事業の創出なのか、事業範囲の拡大なのか、マーケットの拡大なのか、従業員を含めて、企業戦略としてのM&Aの必要性を理解していることが成功の鍵になります。
いくつかの相手企業が挙がったとき、その中からフィーリングや直感で相手を選んではいけまセん。その企業が相手として適切な理由を言語化することが重要です。「買収対象の企業に売却ニーズがあるか」「相手企業とのシナジー効果は見込めるか」「相手企業の財務面は健全か、安心性が担保されているか」「M&Aの実現に十分な可能性があるか」以上の4つの視点で、相手企業が適切かどうかを見定めることが必要です。
M&Aは企業の買い物ですから、値段をつけなければなりません。バリュエーション(企業価値評価)は売却対象企業の価値を測る手法です。主に3つの方法があります。
売却対象企業の貸借対照表における純資産額を企業価値とする考え方です。将来的なキャッシュフローは織り込まれないのが特徴です。わかりやすいため小規模のM&Aでよく用いられます
売却対象企業の将来的なキャッシュフローの予測値を加味して価値を測る考え方です。売り手側の事業計画からフリーキャッシュフローを求め、これに理論的な割引率を適用して算定します。合理的な方法でよく用いられますが、算定の前提を相互に共有するのに困難を伴う場合もあります
類似した上場企業の株価や業績をもとに算定した倍率を、対象企業の業績に乗じて株式価値の総額を想定する考え方です。上場前や非上場の企業のケースでよく用いられます
買収対象の企業の経営状態などを調査するデューデリジェンスは極めて重要なプロセスです。売り手側が準備した経営資料には現れてこない簿外債務などのリスクを把握することも重要です。しかし「M&Aで見込んだシナジーが確実に得られるか」「目論んだ経営戦略は実現可能か」などに関連する事項の確認はさらに重要です。この結果次第では売却対象企業の企業価値を見直す必要もあり、慎重に、かつ徹底して行う必要があります。
M&Aは目的でなく手段だと説明しました。PMI(経営統合)は、まさにM&Aを目的実現に向かわせる大事な取り組みです。買収後、一般的には3カ月程度の間に、中期経営計画を立案したり、企業風土や企業ルールのすり合わせを行ったり、2つの企業を一つにまとめて目標に向かって進む体制づくりを行います。このプロセスを迅速かつ確実に行うことで、M&Aの成果が得やすくなります。
候補となる企業を見つけたり、専門的な知識を要する資料作成や調査をしたり、高度な専門性を要するM&Aを外部の力を借りずに完結させるのは非常に困難です。M&A仲介会社など経験や実績のある専門家を頼ることは、M&A成功のためには欠かせないものとなっています。実施を考えているM&Aの動向に詳しい専門家、対象企業の業界に精通したプロに依頼できれば、M&Aの成功確率は格段に上がります。
M&Aは、企業の飛躍や合理的な企業清算を目指して行うわけですが、往々にして思わぬトラブルに見舞われます。社会経済の変化や突発的な出来事による企業価値の下落など、防ぎ得ない要因による場合もあります。しかし、多くの困難は、周到な準備と慎重な展開によって防ぎ得るものです。
ウィルゲートが目指すのは、売り手様、買い手様、双方に納得感のあるM&Aです。M&Aがお客様の目的やご希望に合致しない場合、無理にM&Aをすすめることは絶対にありません。
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