株式交換とは?メリット・デメリット、手続き、株式移転との違いを解説

株式交換とは?メリット・デメリット、手続き、株式移転との違いを解説

株式交換とは、既存の会社が他の会社の発行済株式のすべてを取得し、完全親子会社の関係を築く組織再編の手法です。会社法に定められた手続きに沿って進められ、対価として自社の株式を交付するのが一般的です。

この記事では、株式交換の仕組みからメリット・デメリット、具体的な手続きの流れまでをわかりやすく解説し、他の手法との違いも一覧で比較します。

\成約例や支援の特徴・流れを紹介/

株式交換の仕組みをわかりやすく解説

株式交換の仕組みをわかりやすく解説

株式交換は、買い手企業が売り手企業の株主に対し、その保有株式と引き換えに自社の株式を割り当てる組織再編のスキームです。この方法により、売り手企業の発行済株式の100%を取得し、完全子会社化を実現します。多額の買収資金を必要とせず、株式の交換のみで子会社化を進められる点が大きな特徴です。

その目的や理由には、グループ経営の効率化や迅速な事業拡大などが挙げられます。

株式交換は既存の会社を完全親会社にするM&A手法

株式交換は、ある株式会社が他の株式会社の発行済株式の全部を取得する組織再編行為です。この手続きにより、株式を取得した会社は「完全親会社」、株式を取得された会社は「完全子会社」となり、100%の親子会社関係が成立します。

企業結合の一形態であり、買収の対価として完全親会社の株式(親会社株式)が完全子会社の株主に交付されるのが基本です。これにより、完全子会社の株主は、新たに完全親会社の株主となります。

この手法は、現金を用意することなく企業買収を進められるため、手元資金が少ない場合でも大規模なM&Aを実行できる可能性があります。また、子会社の法人格は維持されるため、独立性を保ちながらグループ経営の強化を図りたい場合に有効な選択肢となります。

親会社の親会社株式を対価とする「三角株式交換」とは

三角株式交換とは、買収対象会社(完全子会社)の株主に対して、買収会社(完全親会社)自身の株式ではなく、そのさらに親会社(最上位の親会社)の株式を対価として交付する手法です。通常の株式交換が二社間で行われるのに対し、親会社の親会社が関与するため「三角」と呼ばれます。

このスキームは、特にクロスボーダーM&Aにおいて活用されることが多いです。

例えば、外国企業が日本法人を通じて日本企業を買収する際に、日本法人の株式ではなく、外国の親会社の株式を対価として交付するケースがこれに該当します。
日本の会社法改正により可能となったこの手法は、グローバルな組織再編戦略において柔軟な対応を可能にし、買収後のグループシナジー創出を円滑に進める上で重要な選択肢の一つとなっています。

株式交換と他のM&A手法との相違点

株式交換と他のM&A手法との相違点

M&Aには株式交換以外にも多様な手法が存在し、それぞれ目的や手続きが異なります。特に混同されやすい「株式移転」や、一般的な買収手法である「株式譲渡」との違いを理解することは、自社の状況に最適なスキームを選択する上で不可欠です。

ここでは、これらの手法と株式交換の相違点を明確にし、それぞれの特徴を比較します。

新たに親会社を設立する「株式移転」との明確な違い

株式交換と株式移転は、どちらも完全親子会社関係を構築する組織再編手法ですが、親会社のあり方に明確な違いがあります。

株式交換は、既存の会社が完全親会社となるのに対し、株式移転は、新たに会社を設立し、その新設会社を完全親会社とする手法です。

株式移転は、複数の会社を傘下に収める共同持株会社の設立や、経営統合、ホールディングス体制への移行などを目的として用いられるケースが多く見られます。

具体的には、1社または2社以上の株式会社が、その発行済株式の全部を新しく設立する株式会社に移転させることで成立します。したがって、既存の会社を軸に子会社化を進めるのが株式交換、新たな受け皿となる親会社を設立するのが株式移転という点が根本的な相違点です。

対価が現金中心となる「株式譲渡」との違い

株式譲渡は、売り手企業の株主が保有する株式を、買い手企業が金銭を対価として買い取るM&A手法です。株式交換の対価が原則として親会社の株式であるのに対し、株式譲渡では現金(金銭)が用いられる点が最も大きな違いとなります。

そのため、買い手企業は買収資金を準備する必要があります。また、株式譲渡は株主と買い手の間の個別契約で進められることが多く、手続きが比較的簡便です。

一方で、上場企業を対象とする場合は、金融商品取引法の規制に基づき、市場内外で不特定多数の株主から株式を買い集める公開買付(TOB)という方法が採られることもあります。株式交換が会社法上の組織再編行為として会社全体で手続きを進めるのとは対照的に、株式譲渡は個別の株式売買契約の集合体という性質を持ちます。

株式交換で得られるメリット

株式交換で得られるメリット

株式交換は、買い手側売り手側の双方に多くの利益をもたらす可能性があるM&A手法です。特に、買収資金の準備が不要である点や、組織の独立性を保ちながら統合を進められる点は大きな魅力です。

ここでは、株式交換のメリットを買い手側と売り手側、そして双方の視点から具体的に掘り下げていきます。

【買い手側】買収資金を用意せずにM&Aを実行できる

株式交換の最大のメリットの一つは、買収のための多額の現金を準備する必要がない点です。対価として自社の株式を割り当てるため、手元資金が潤沢でない企業でもM&Aの実行が可能になります。これにより、資金調達にかかる時間や費用を抑えつつ、迅速に事業拡大やグループ強化を図れます。

会社法の改正により、株式だけでなく現金や社債などを対価とすることも可能となり、対価の柔軟化が進んでいますが、依然として株式を対価とするケースが主流です。
特に、成長企業が資金を事業投資に集中させたい場合や、大規模な買収を検討している場合に、このメリットは大きなアドバンテージとなります。
財務的な負担を軽減しながら、戦略的な組織再編を実現できる有効な手法です。

【買い手側】少数株主から強制的に株式を取得できる

株式交換は、株主総会の特別決議で承認されれば、手続きに反対する少数株主が保有する株式も強制的に取得し、完全子会社化を実現できる点が大きなメリットです。このプロセスは、少数株主を締め出す「スクイーズアウト」の一手法として機能します。

株式譲渡の場合、全株主から合意を得ることは難しく、一部の株主が株式を保有し続ける可能性がありますが、株式交換ではその心配がありません。

これにより、完全子会社化をスムーズかつ確実に達成し、意思決定の迅速化や経営の一体化を図ることが可能となります。少数株主の存在による経営上の制約がなくなり、連結グループ内での情報共有やシナジー創出に向けた施策を円滑に進めることができます。

【売り手側】完全親会社の経営に参加できる可能性がある

売り手企業の株主は、株式交換によって完全子会社の株式を手放す代わりに、完全親会社の株式を取得します。これにより、売り手企業の株主は新たに親会社の株主となり、経営に間接的に参加する道が開かれます。保有株数に応じて議決権を行使したり、親会社の業績が向上すれば配当金を受け取ったりすることが可能です。

また、親会社が持株会制度を設けている場合には、その恩恵を受けることも考えられます。自社が他社の完全子会社となる一方で、その親会社の成長に株主として関与し続けられる点は、売り手側の株主にとって魅力的な要素です。企業の将来性や成長戦略に共感できる場合、株式交換は単なる株式の売却とは異なり、継続的な関係性を築く機会となります。

【双方】子会社の独立性を保ったまま緩やかな統合が可能

株式交換では、完全子会社となる企業の法人格が消滅せず、独立した会社として存続します。これは、法人格が消滅する吸収合併とは異なる大きな特徴です。そのため、子会社の企業文化や従業員の雇用、取引先との関係などを維持したまま、緩やかな経営統合を進めることが可能です。

急進的な統合による現場の混乱や従業員のモチベーション低下といったリスクを避けながら、時間をかけてグループ内でのシナジーを追求できます。連結グループとしての連携を強化しつつも、各社の独自性を尊重した経営が実現できるため、特に企業文化が大きく異なる企業間の統合や、子会社のブランド価値を維持したい場合に有効な手法です。

株式交換におけるデメリットと注意点

株式交換におけるデメリットと注意点

株式交換には多くのメリットがある一方で、デメリットや注意すべき点も存在します。株主構成の変化や株価への影響、手続きの煩雑さなど、事前に把握しておくべきリスクがあります。

これらのデメリットを理解せずに進めると、意図しない損益が発生したり、最悪の場合は差止請求や無効の訴えにつながる可能性も否定できません。ここでは、買い手側と売り手側、双方の視点から具体的なデメリットと注意点を解説します。

【買い手側】自社の株主構成が変化する恐れがある

株式交換では、買収の対価として自社の株式を新たに発行、または自己株式を交付します。

これにより、完全子会社の株主が新たに自社の株主として加わるため、既存の株主構成が変化します。
特に、子会社の株主数が多かったり、大株主が存在したりする場合には、その影響は大きくなります
新たな株主の意向が経営に反映されるようになり、経営権の安定性が損なわれる可能性があります。

例えば、創業者の持株比率が低下したり、特定の株主グループが経営に対して強い発言権を持つようになったりするケースが考えられます。そのため、株式交換を実施する際には、事前に子会社の株主構成を詳細に分析し、自社の経営に与える影響を慎重に評価する必要があります。

【買い手側】株価の希薄化により1株あたりの価値が下がるリスク

株式交換の対価として新株を発行する場合、発行済株式総数が増加します。

これにより、1株あたりの利益や純資産が減少し、株価の希薄化(ダイリューション)が起こるリスクがあります。株価が下落すれば、既存株主の資産価値が目減りすることになり、株主からの反発を招く可能性があります。

この希薄化の影響を最小限に抑えるためには、株式交換によって得られるシナジー効果が、株式数の増加によるマイナス影響を上回ることを株主に示す必要があります。M&A後の具体的な成長戦略や収益向上の見通しを明確に説明し、市場や株主の理解を得ることが重要です。株価への影響を十分に考慮した上で、株式交換比率を適切に設定しなくてはなりません。

【売り手側】親会社が非上場の場合、株式の現金化が難しい

売り手企業の株主は、株式交換によって親会社の株式を取得しますが、その親会社が非上場企業である場合、受け取った株式を容易に現金化できないというデメリットがあります。上場株式であれば市場でいつでも売却できますが、非上場株式には流動性がなく、買い手を見つけることは困難です。

特に中小企業同士の株式交換では、この問題が顕在化しやすくなります。

現金化を望む株主にとっては、換金性の低い株式を保有し続けることになり、不満が生じる可能性があります。このような状況を避けるため、株式交換契約において、親会社による株式の買取条項を盛り込むなどの対策を検討する必要があります。

売り手企業の株主は、対価として受け取る株式の流動性を事前に確認することが重要です。

【双方】手続きが複雑で完了までに時間がかかる

株式交換は会社法に定められた組織再編行為であり、その手続きは非常に複雑で、完了までに長い期間を要します。取締役会での決議から始まり、株式交換契約の締結、事前・事後の書類開示、株主総会での特別決議、反対株主の株式買取請求への対応、債権者保護手続き(必要な場合)など、多くのステップを踏む必要があります。

これらの手続きには法律で定められた期間が設定されており、一般的に数ヶ月単位の時間を要します。
近年の法改正により手続きの一部は簡素化されていますが、依然として多くの論点が存在し、専門的な知識が不可欠です。時間とコストがかかる点は、株式譲渡のような比較的シンプルな手法と比較した場合のデメリットと言えます。

\成約例や支援の特徴・流れを紹介/

株式交換の基本的な手続きと流れを8ステップで解説

株式交換を実際に行うには、会社法で定められた厳格な手続きを正しい順序で進める必要があります。
このプロセスは複雑で多岐にわたるため、全体の流れと各ステップでやるべきことを正確に把握しておくことが成功の鍵となります。

ここでは、株式交換の基本的な手続きとスケジュールを、契約締結から登記完了、事後開示まで8つのステップに分けて具体的に解説します。

STEP1:取締役会での決議と株式交換契約の締結

株式交換の最初のステップは、完全親会社となる会社と完全子会社となる会社、それぞれの取締役会において株式交換を行う旨の決議を得ることです。

取締役会設置会社でない場合は、株主総会での決議が必要になります。両社で承認が得られた後、両社間で株式交換契約を締結します。この契約書には、会社法で定められた事項を記載しなければなりません。

具体的には、当事会社の商号と住所、株式交換比率、効力発生日、株主総会の開催日などが含まれます。特に株式交換比率は、両社の株主の利益に直結する重要な項目であり、慎重な算定が求められます。

この契約は、後のすべての手続きの基礎となるため、法務・財務の専門家を交えて内容を十分に検討し、不備のない契約書を作成することが不可欠です。

STEP2:事前開示書類の作成と本店への備置

株式交換契約を締結した後、両社は法務省令で定める事項を記載した「事前開示書類」を作成し、それぞれの本店に備え置く必要があります。この書類は、株主や債権者などの利害関係者が株式交換の内容を判断するための重要な情報源となります。

備置期間は、株主総会の2週間前(または株主への通知・公告のいずれか早い日)から効力発生日後6ヶ月を経過する日までと定められています。

開示書類には、株式交換契約の内容や交換比率の算定根拠、当事会社の財産状況などが記載されます。
また、株式交換によって新たに株式を交付する株主が50人以上になる場合など、特定の条件に該当する場合は、有価証券届出書の提出も必要です。上場企業の場合は、これらに加えて適時開示も求められます。

STEP3:株主総会を招集し特別決議で承認を得る

株式交換は、会社の組織に関する重要な決定であるため、原則として効力発生日の前日までに、当事会社双方の株主総会において特別決議による承認を得る必要があります。

臨時株主総会を招集し、議案を付議するのが一般的です。

特別決議は、議決権を行使できる株主の過半数が出席し、その出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要となる、普通決議よりも厳しい要件が課された総会決議です。株主に対しては、株式交換の内容や目的を十分に説明し、理解を求めることが重要になります。

なお、後述する簡易株式交換や略式株式交換の要件を満たす場合には、この株主総会での承認手続きを省略することが可能です。

STEP4:反対株主からの株式買取請求に対応する

株式交換に反対する株主には、その利益を保護するために、自己が保有する株式を公正な価格で会社に買い取るよう請求する権利(株式買取請求権)が認められています。

会社は、株主総会の開催に先立ち、株主に対して株式交換を行う旨と、この買取請求権があることを通知しなければなりません。反対株主は、株主総会に先立って反対の意思を会社に通知し、かつ株主総会で反対票を投じた上で、効力発生日の20日前から前日までの間に、買取請求を行うことができます。

会社は、請求のあった株式を公正な価格で買い取る義務を負います。価格の協議が整わない場合は、最終的に裁判所が価格を決定することになります。この手続きは、少数株主の権利を保護する上で重要なプロセスです。

STEP5:債権者保護手続きを実施する(必要な場合)

株式交換において、債権者保護手続きが必要となるケースがあります。

例えば、完全親会社が完全子会社の株主に対価として自社の株式ではなく社債などを交付する場合や、完全子会社が保有する新株予約権付社債を完全親会社が承継する場合などです。これらのケースでは、会社の財産状況が変動し、債権者の利益を害する可能性があるため、債権者異議手続が求められます。

具体的な手続きとしては、官報に公告し、かつ把握している債権者に対して個別に通知(催告)を行います。債権者は一定期間内(1ヶ月以上)に異議を述べることができ、異議があった場合には、会社は弁済、担保の提供、または信託会社への財産信託のいずれかの対応をとる必要があります。これを債権者保護手続と呼びます。

STEP6:株式交換の効力発生日を迎える

事前に株式交換契約で定めた効力発生日を迎えると、株式交換の法的な効力が生じます。この日をもって、完全子会社の株主が保有していた株式は、すべて完全親会社に移転します。

そして、その対価として、完全子会社の元株主は完全親会社の株主となります。具体的には、効力発生日の前日の最終の株主名簿に記載された株主が、株式の割り当てを受ける対象者です。

この日を境に、完全子会社は完全親会社の100%子会社となり、両社の間に完全な親子会社関係が成立します。効力発生日以降は、株主構成の変更に伴う株主名簿の書き換えなど、社内での事務手続きも必要になります。すべての法的・事務的な手続きがこの日を起点として完了に向かいます。

STEP7:法務局で変更登記手続きを行う

株式交換の効力が発生した後、完全親会社と完全子会社は、法務局で登記事項の変更登記を行う必要があります。この手続きは、効力発生日から2週間以内に、本店所在地を管轄する法務局にて行わなければなりません。完全親会社は、資本金の額や発行済株式総数の変更などを登記します。

一方、完全子会社側では、株式の譲渡制限に関する定款の定めを変更した場合や、新株予約権が消滅した場合などに変更登記が必要です。登記は、株式交換という事実を第三者に対抗するための重要な手続きです。

登記が完了することで、法的に株式交換が公示され、すべてのプロセスが公に認められることになります。期限内に確実に手続きを完了させることが求められます。

STEP8:事後開示書類を作成し本店に備え置く

株式交換の効力発生後、当事会社は遅滞なく、法務省令で定める事項を記載した「事後開示書類」を作成し、本店に備え置く義務があります。

備置期間は、効力発生日から6ヶ月間です。この書類には、株式交換の効力発生日、反対株主からの株式買取請求の経過、移転した完全子会社の株式数、その他株式交換に関する重要な事項などを記載します。

これにより、株主や債権者などの利害関係者は、株式交換が無事に完了したことやその結果を正確に確認することが可能です。会計上、完全親会社が取得した完全子会社株式の取得価額は、原則として対価として交付した自社株式の時価となりますが、事後開示書類には、効力発生日における子会社の資産及び負債の帳簿価額なども記載されます。

株主総会が不要になるケースとは?簡易・略式株式交換を解説

株主総会が不要になるケースとは?簡易・略式株式交換を解説

株式交換では原則として株主総会の特別決議が必要ですが、一定の要件を満たす場合には、この煩雑な手続きを省略できます。それが「簡易株式交換」と「略式株式交換」です。

これらの制度を活用することで、手続きにかかる時間とコストを大幅に削減し、より迅速な組織再編が可能になります。ここでは、それぞれの制度の適用要件と内容について解説します。

軽微な買収で認められる「簡易株式交換」

簡易株式交換とは、完全親会社となる会社側において、株主総会の承認決議を省略できる制度です。

この制度が適用されるのは、買収の規模が比較的小さく、親会社の経営に与える影響が軽微であると判断される場合です。

具体的には、完全子会社の株主に交付する対価(株式や金銭など)の帳簿価額の合計額が、完全親会社の純資産額の5分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合はその割合)を超えないことが要件となります。

ただし、この要件を満たしていても、株式交換によって親会社が差損を被る場合や、非公開会社が譲渡制限株式を対価として交付する場合などは適用対象外です。また、一定数の株主が株式交換に反対した場合は、原則通り株主総会の決議が必要になります。

特別支配関係の会社間で行われる「略式株式交換」

略式株式交換は、当事会社間に特別な支配関係がある場合に、被支配会社側の株主総会決議を省略できる制度です。

具体的には、完全親会社となる会社が、完全子会社となる会社の総株主の議決権の90%以上(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)を保有している場合に適用されます。この状況では、子会社の株主総会を開いても、親会社が圧倒的多数の議決権を持っているため、決議の結果は明らかです。
そのため、手続きの簡素化を図る目的で、総会決議を不要としています。

この制度は、既に親子関係にある企業間で完全子会社化を目指す場合や、同じ親会社を持つ兄弟会社同士で組織再編を行う場合などに活用されます。ただし、子会社が非公開会社で、対価が譲渡制限株式である場合は適用できません。

株式交換を進める上で知っておきたい重要ポイント

株式交換を進める上で知っておきたい重要ポイント

株式交換を成功させるためには、法的な手続きを理解するだけでなく、実務上の重要ポイントを押さえておく必要があります。特に、当事会社の株主の利害に直接影響する「株式交換比率」の算定は、最も重要な論点の一つです。

また、新株予約権の扱いや株価変動リスクへの備えも欠かせません。ここでは、公正な取引を実現するために知っておくべきポイントを解説します。

公正な「株式交換比率」はどのように算定されるのか

株式交換比率とは、完全子会社の株式1株に対して、完全親会社の株式が何株割り当てられるかを示す割合のことです。この比率の算定は、両社の株主の利益を損なわないよう、公正に行われなければなりません。

具体的な計算方法は、当事会社が上場企業か非上場企業かによって異なります。上場企業の場合は市場株価を基礎とすることが多いですが、非上場企業の場合は、DCF法、純資産法、類似会社比較法など複数の企業価値評価の手法を組み合わせて株価を算定します。

第三者算定機関に評価を依頼するのが一般的です。算出された比率に基づき株式を割り当てた結果、1株に満たない端数(単元未満株)が生じた場合は、会社法に基づき金銭で処理されます。
不公正な交換比率は、株主からの訴訟リスクにもつながるため、客観的で合理的な計算が不可欠です。

株価変動リスクに備える2つの方式(固定・変動)

株式交換契約の締結から効力発生日までの期間には、数ヶ月を要することが多く、その間に両社の株価が変動するリスクがあります。この株価変動リスクに対応するため、株式交換比率の決定方法には主に2つの方式があります。

一つは、契約締結時点で交換比率を確定させる「固定比率方式」です。手続きがシンプルですが、効力発生日までの株価変動によって、一方の会社の株主が有利または不利になる可能性があります。

もう一つは、効力発生日直前の一定期間の株価を基に比率を最終決定する「変動比率方式」です。
こちらは効力発生日時点での公正性を保ちやすいですが、最終的な比率が直前まで確定しないという不確実性があります。

どちらの方式を選択するかは、両社の交渉や市場環境などを総合的に考慮して判断されます。

\成約例や支援の特徴・流れを紹介/

株式交換の事例

株式交換の事例

ここで、実際に行われた株式交換の事例について見ていきましょう。株式交換は企業の大小を問わず実施されているM&A手法で、多くの業界の会社が実勢している様子がうかがえます。

川崎汽船株式会社

川崎汽船は2022年3月に両社の取締役会で、連結子会社の川崎近海汽船とともに、川崎汽船を株式交換完全親会社、川崎近海汽船を株式交換完全子会社とする株式交換を行うことを決議しました。すでに両者間で株式交換の契約締結は完了しており、2022年の6月1日を効力発生日としています。

今回の株式交換は、川崎汽船において株主総会の承認を受けずに行える方式を採用のうえ実施されており、迅速な株式交換の効力発生が促されています。子会社となる川崎近海汽船では、5月10日に開催予定の臨時株主総会の決議で承認を受けたうえで、株式交換が成立することとなっています。川崎近海汽船は上場企業ではありますが、株式交換の効力発生日を目前にした5月30日に、東京証券取引所市場第二部からの上場廃止を予定しています。

参考:https://www.nikkei.com/article/DGXZRSP628556_W2A310C2000000/

イオン株式会社

日本のスーパーマーケット業界において大きな転換点となったのが、2014年に行われたイオングループとダイエーによる株式交換の実現です。

株式交換とはいえダイエーはイオンの完全子会社となり、株式は100%イオンに譲渡される形となりました。業績不振が続いていたダイエーの早期再建を目指すことを目的とした株式交換で、当時低迷していたイオンのスーパーマーケット業務を刷新するためのテコ入れとしても、注目を集めていました。

これまで食料品店の代名詞でもあったダイエーですが、株式交換以降は首都圏・京阪神地域の食品スーパーの運営会社として存続され、一般消費者の間でダイエーの屋号が使われることはなくなりました。しかし完全子会社として親会社の傘下に入ることは、余計な株主の声を排除し、速やかに再編を遂行していくうえで非常に有効な戦略です。

特に当時のダイエーのように、経営不信に陥っていた状況では、一刻も早い再編を進めていくことが求められます。ダイエーは18年度に売上高5,000億円以上、営業利益率は3%の企業になることを目指すだけでなく、100億円をこえるシナジーが期待されていました。当時、首都圏および京阪神地区において、90%前後の店舗を有していたことから、都市圏の人間にとってはお馴染みのオレンジのロゴマークでしたが、これらが街並みから消滅するインパクトは大きいものがありました。消費者向けの事業を展開する企業にとって、株式交換にともなう屋号の消滅や経営体制の刷新は、売上やブランド認知も大きな影響を与えることを視野に入れておく必要があるでしょう。

参考:https://newspicks.com/news/631079/body/?ref=search

ふくおかフィナンシャルグループ

九州エリアで金融サービスを手がけているふくおかフィナンシャルグループは、2016年に長崎県の十八銀行との経営統合に向けて基本合意を形成しています。株式交換を経て完全子会社化するだけでなく同グループ傘下で長崎県を地盤とする親和銀行と合併させる計画のもとに計画が実行されました。

15年3月期の単純合算で統合後の総資産は18兆4,429億円に達しており、地銀グループとしては当時国内首位を誇っていました。地方銀行の経営不振が全国的に波及する中、ファイナンシャルグループによる地銀再編は、地域経済の復興においても重要な意味を持っています。

特に長崎県は九州地方において人口減少が著しい地域として懸念されており、統合による経営基盤の強化で経済規模の縮小に対応しました。店舗の統合といった効率化を図る一方で、リストラのような形式で人員削減を行うことはないとし、地域の活性化とICTツールを活用した業務効率化、及びサービスの刷新に努めるとしました。

ヤマダホールディングス

家電製品でお馴染みのヤマダホールディングスは、2021年6月に51%を超える株式を保有する大塚家具を、株式交換で完全子会社化すると発表しました。大塚家具は以前より親子対立によって経営不振が続いていましたが、100%の子会社化によって、本格的な経営再編が始まるとされています。

大塚家具は2020年4月期まで、4期連続で営業損益・営業キャッシュフローがマイナスとなっていたために、すでに上場廃止の猶予期間に差し掛かっていました。上場廃止を回避するためには2022年4月30日までの黒字化が求められていましたが、この度の株式交換にともない上場は廃止され、ヤマダホールディングスの子会社として経営が継続される見込みです。

ヤマダホールディングスは2019年の連結子会社化を実現し、2020年には前社長の大塚久美子氏が辞任したことで、ヤマダホールディングスの三嶋恒夫会長が社長を兼務する形となっていました。今回の100%子会社化にともない、大塚家具の動向がどのように変化していくのかに注目したいところです。

参考:https://newspicks.com/news/5920252/body/?ref=search

株式会社メルカリ

CtoCサービスを手掛けているメルカリは、IT分野における企業の買収や子会社化を進めています。

2018年10月、メルカリは「CARTUNE」を運営しているマイケルを完全子会社化すること発表しました。マイケルの子会社化は簡易株式交換によって実施され、株主総会における決議を省力する形で交換が行われました。マイケルの株主には普通株式1株に対して、メルカリの普通株式194.83株が割当てられ、39万2,582株をメルカリ株価3,820円で交付するとし、概算で約15億円の企業評価がマイケルに見込まれています。

メルカリはこれまで、個人間の取引を広く取り扱えるプラットフォームを形成してきましたが、マイケルが手がけてきた「CARTUNE」は、カスタムカーに特化したコミュニティに向けて提供されていた、CtoCのプラットフォームです。

メルカリでは専門性の高いプラットフォーム運営におけるノウハウ獲得や連携について積極的な模索を進めており、実際のCARTUNEにおける取引においてメルカリを活用するなどの新しいプランの策定にも動きはじめています。

参考:https://thebridge.jp/2018/10/mercari-acquired-cartune?utm_source=FeedBurner-Sd+Japan%28Japanese-New%29&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed%3A+SdJapan+%28Bridge+%28Japanese%29%29

株式交換に関わる税務の基礎知識

株式交換に関わる税務の基礎知識

株式交換を実行する際には、税務上の取り扱いを正しく理解しておくことが極めて重要です。特に、組織再編税制における「適格要件」を満たすかどうかで、株主や法人に対する課税関係が大きく異なります。

ここでは、法人税法や所得税の観点から、株式交換に伴う課税の原則と、課税が繰り延べられる適格株式交換の要件、そして会計処理のポイント(資本金、その他資本剰余金、のれん、みなし配当など)について解説します。

原則として株主の譲渡益に課税が発生する

株式交換が税法上の「適格要件」を満たさない場合、これを非適格株式交換と呼びます。

この場合、完全子会社の株主は、保有していた株式を時価で譲渡したものとみなされ、譲渡益に対して課税されます。譲渡益は、対価として受け取った親会社株式の時価から、保有していた子会社株式の取得価額を差し引いて計算されます。

この利益は「みなし譲渡益」と呼ばれ、株主が個人の場合は所得税、法人の場合は法人税の課税対象です。つまり、株式交換によってまだ現金化していないにもかかわらず、含み益が実現したものとして課税されることになります。

株主にとっては大きな税負担となる可能性があるため、株式交換を検討する際には、適格要件を満たせるかどうかを事前に慎重に検討することが不可欠です。

課税が繰り延べられる「適格株式交換」の要件とは

適格株式交換とは、法人税法上の特定の要件を満たす株式交換のことで、これに該当する場合、課税上の優遇措置が受けられます。最大のメリットは、完全子会社の株主に対する譲渡損益の課税が、対価として受け取った親会社株式を将来売却する時点まで繰り延べられることです。

これにより、株主は株式交換の時点では税負担なく手続きを進めることができます

適格要件は、当事会社間の支配関係の有無によって異なります。
例えば、完全支配関係があるグループ内再編の場合は比較的緩やかな要件ですが、支配関係のない企業間の場合には、事業関連性や役員の継続、対価が株式のみであること、そして主要株主による株式の継続保有要件など、より厳しい条件が課せられます。
これらの適格要件を一つでも満たさない場合は非適格と判断されます。

まとめ

株式交換は、買収資金を要さずに完全子会社化を実現できる組織再編手法であり、多くのメリットがあります。本記事で解説した内容を参考に、自社の状況に合わせた最適な手法を選択することが重要です。

『ウィルゲートM&A』にお気軽にご相談ください!

ウィルゲートが目指すのは、売り手様、買い手様、双方に納得感のあるM&Aです。M&Aがお客様の目的やご希望に合致しない場合、無理にM&Aをすすめることは絶対にありません。

M&Aで思わぬ失敗をしないためにも、まずは一度、ウィルゲートM&Aにご相談いただければ幸いです。
M&Aが解決策として見込める場合、15,100社以上の経営者とのネットワークから、最適なマッチングを迅速にご提示させていただきます。

成約実績は2年で50件以上、完全成功報酬型で着手金無料ですので、まずはお気軽にご相談ください!

\成約例や支援の特徴・流れを紹介/

無料相談・お問い合わせは
こちらから

ご相談・着手金は無料です。
売却(譲渡)をお考えの際はお気軽にご相談ください

お電話からのお問い合わせはこちら

050-3187-7449

受付時間:平日 9:00 ~ 17:00