
介護業界は、後継者不足や人材採用の困難、そして2024年度の介護報酬改定といった経営環境の変化に直面しています。このような課題を背景に、事業の存続や成長戦略の一環としてM&Aを選択する事業者が増加傾向にあります。
この記事では、介護業界におけるM&Aの最新動向、売り手・買い手双方のメリット、売却価格の相場、そして成功に向けた具体的なステップと重要なポイントについて、事例を交えながら詳しく解説します。
\成約例や支援の特徴・流れを紹介/

近年、介護業界のM&Aが活発化しています。その背景には、個々の事業者だけでは解決が難しい構造的な課題が存在します。経営者の高齢化に伴う後継者問題、慢性的な人材不足、法改正による経営への影響、そして成長市場への新規参入など、複数の要因が複雑に絡み合い、業界再編を加速させています。
これらの課題解決や事業戦略の手段として、M&Aが有効な選択肢として注目されています。
中小企業全体で経営者の高齢化と後継者不足が進んでおり、介護事業者においても、後継者不在を理由に事業承継を検討するケースが見られます。多くの小規模事業所では、代表者自身が現場のリーダーを兼任しており、親族や従業員の中に適当な後継者が見つからないケースが少なくありません。事業を継続したくても後継者がいないため、廃業を選択せざるを得ない状況も生まれています。
こうした中で、第三者へ事業を託すM&Aは、創業者利益を確保しつつ、従業員の雇用と利用者へのサービス提供を維持するための有力な事業承継手段となっています。
事業承継の具体的な種類や手順、活用できる支援制度については「事業承継とは?中小企業向けに種類・流れ・支援制度をわかりやすく解説」の記事で詳しく解説しています。
介護業界は、全産業の中でも特に有効求人倍率が高く、慢性的な人手不足に悩まされています。特に、経験豊富な介護福祉士やケアマネージャーといった専門職の採用は一層困難です。新規に採用活動を行っても、求める人材を確保するには多大な時間とコストがかかります。
M&Aを活用すれば、事業所が抱える介護スタッフや看護師、その他専門職をまとめて引き継ぐことが可能です。これにより、採用コストを大幅に削減し、即戦力となる人材を確実に確保できるため、買い手企業にとって大きなメリットとなります。
介護事業所の収益の大部分は介護保険給付費であり、3年ごとに行われる介護報酬改定は経営に直接的な影響を及ぼします。
2024年度の改定では、物価高騰に対応する賃上げ促進などが盛り込まれる一方、基本報酬が引き下げられたサービスもあり、特に経営基盤が脆弱な小規模事業者にとっては収益圧迫の要因となり得ます。
M&Aによって大手の傘下に入ることで、スケールメリットを活かした運営が可能になります。
例えば、備品や食材の共同購入によるコスト削減、本部機能の集約による業務効率化など、経営基盤を強化し、安定した事業運営を目指せます。
なお、M&Aの専門家費用やPMI費用には要件を満たせば「事業承継・M&A補助金」が活用できます。詳しくは「M&A補助金の上限金額や補助率、申請要件」の記事をご確認ください。
日本国内で高齢化が進行する中、介護市場は今後も拡大が見込まれる成長分野です。この将来性に着目し、不動産、IT、飲食といった異業種から介護事業への新規参入を目指す企業が増えています。しかし、介護事業をゼロから立ち上げるには、指定基準を満たす施設や人員の確保、そして自治体からの許認可取得など、多くのハードルが存在します。
特に、施設数に上限が設けられている総量規制のある地域では、新規開設が困難です。そのため、既存の事業所をM&Aによって取得する手法は、迅速かつ効率的に市場へ参入するための最適な戦略として選ばれています。

介護業界におけるM&Aは、事業を譲渡する売り手側と、譲り受ける買い手側の双方に大きなメリットをもたらします。売り手にとっては長年の経営課題を解決する出口戦略となり、買い手にとっては事業拡大を加速させる成長戦略となります。
それぞれの立場から、M&Aを通じて具体的にどのような利点が得られるのかを理解することは、円滑な交渉と成功への第一歩です。
事業を譲渡する売り手側の経営者にとって、M&Aは多くの悩みを解決する有効な手段です。最大のメリットは、後継者不在の問題を解消し、事業の存続を図れる点です。これにより、長年尽力してきた従業員の雇用を守り、サービスを利用する地域住民への貢献を継続できます。
また、会社を売却することで創業者利益を獲得し、引退後の生活資金を確保することも可能です。経営者が個人で負っていた借入金の個人保証や担保についても、買い手や金融機関との協議により解除・見直しができる場合があります。ただし、自動的に解消されるものではないため、M&Aの条件交渉と並行して金融機関との調整が必要です。
事業を譲り受ける買い手側にとって、施設のM&Aは成長戦略をスピーディに実現するための強力な手段です。新規で事業所を開設する場合、土地や建物の確保、人材採用、行政からの許認可取得までに多大な時間とコストを要します。M&Aであれば、これらのプロセスを大幅に短縮し、既存の事業基盤をすぐに活用できます。
特に、経験豊富な介護職員や管理者といった人材を一度に確保できる点は、採用難の現状において非常に価値が高いメリットです。複数の施設を買収することで、特定地域でのシェアを高めるドミナント戦略も効率的に進められます。
\成約例や支援の特徴・流れを紹介/

介護事業のM&Aを検討する際、売り手・買い手双方にとって最も関心の高い事項の一つが「売却価格」です。価格は交渉によって最終的に決定されますが、その基準となるのが「企業価値評価」です。
これは専門的な計算方法に基づいて算出され、企業の収益性や資産、市場での立ち位置などを客観的に評価したものです。
どのような方法で価値が算出されるのか、その基本的な考え方を理解しておくことが重要です。
M&Aにおける企業価値の評価には、主に3つのアプローチが存在します。1つ目は「コストアプローチ」で、企業の純資産(資産から負債を引いた額)を基準にする方法です。時価純資産法が代表的で、企業の解散価値に近い評価となり、M&A価格の下限の目安とされます。
2つ目は「インカムアプローチ」で、将来事業が生み出すと予測されるキャッシュフローを基に価値を算出します。DCF法が有名で、企業の将来の収益性を重視する評価方法です。
3つ目は「マーケットアプローチ」で、事業内容が類似する上場企業などの株価やM&A事例を参考に、相対的な価値を評価します。
客観性が高い一方で、比較対象となる適切な企業を見つけるのが難しい場合があります。
これらの方法を複合的に用いて、適正な企業価値(M&Aバリュエーション)を導き出します。
DCF法や時価純資産法など、各アプローチの具体的な計算方法については「企業価値評価(バリュエーション)の算出方法とM&Aで用いられる評価手法」の記事で詳しく解説しています。
介護事業の売却価格は、事業形態によって大きく変動します。
例えば、有料老人ホームやグループホームなどの施設型サービスでは、土地・建物を保有している場合には不動産価値が評価に大きく影響します。一方、賃借物件で運営している場合は、稼働率、収益性、人員体制、指定・許認可、賃貸借条件などが重要な評価要素となります。一方、訪問介護やデイサービスなどの「在宅サービス」は、有形資産が少ないため、将来の収益性や人材の質、地域の評判などが価格を左右する重要な要素となります。
一般的に、介護事業の売却相場は「時価純資産額+営業利益の3〜5年分」が一つの目安とされています。しかし、これはあくまで基準であり、事業の将来性や買い手とのシナジー効果によって、最終的な売却価格は大きく変わる可能性があります。

介護M&Aは、経営者だけでなく、従業員やサービスの利用者、その家族にとっても大きな影響を及ぼす重要な経営判断です。プロセスをただ進めるだけでは、思わぬトラブルに見舞われたり、期待した結果が得られなかったりする可能性があります。後悔のないM&Aを実現するためには、特に注意すべきいくつかのポイントがあります。
ここでは、成功のために不可欠な3つの重要事項を解説します。
M&Aを成功させるための第一歩は、「なぜM&Aを行うのか」という目的を自社内で明確にすることです。後継者問題の解決、事業の成長、創業者利益の確保など、目的によって交渉の進め方や優先すべき条件は変わります。
目的が定まったら、売却価格、従業員の雇用維持、現経営陣の処遇、利用者へのサービス継続といった希望条件を具体的に洗い出し、優先順位をつけましょう。
譲れない条件と、ある程度譲歩できる条件を整理しておくことで、交渉の軸がぶれることなく、スムーズな意思決定が可能になります。
M&Aのプロセスにおいて、情報の取り扱いは極めて重要です。特に、従業員や利用者への情報開示のタイミングと内容は慎重に検討する必要があります。早すぎる公表は、従業員の動揺や離職、利用者離れを引き起こすリスクがあります。
一方で、最終段階まで情報を伏せていると、不信感を招くことになりかねません。基本合意が締結され、M&Aの実現性が高まった段階で、経営者の口から直接、経緯や今後の見通しを丁寧に説明することが求められます。
従業員の雇用が守られることや、サービスの質が維持・向上することを伝え、不安を払拭することが円満な引き継ぎの鍵となります。
介護事業のM&Aは、介護保険法に基づく指定基準や人員配置、行政への手続きなど、業界特有の専門知識や法規制が深く関わります。
これらの知見がないM&A仲介会社に依頼すると、事業の価値を正しく評価できなかったり、法的な手続きで不備が生じたりするリスクが高まります。そのため、パートナーとなる専門家を選ぶ際は、単にM&Aの実績があるだけでなく、介護業界への深い理解と豊富な支援実績を持つ会社を選ぶことが不可欠です。
業界に精通したアドバイザーであれば、事業の強みを的確に買い手へ伝え、より良い条件での成約に導いてくれます。
自社に合ったM&A仲介会社の選び方や比較ポイント、料金体系については「失敗しないM&A仲介会社の選び方|比較ポイントや注意点、費用」の記事で詳しく解説しています。
2023年5月、介護サービスを幅広く手掛ける株式会社揚工舎は、有限会社トータルケア陽だまりの発行済全株式を取得し、完全子会社化しました。譲渡企業であるトータルケア陽だまりは、神奈川県において住宅型有料老人ホーム事業やサービス付き高齢者向け住宅を運営し、質の高い介護を提供してきた会社です。
買い手である揚工舎は、有料老人ホームやデイサービス、訪問介護といった直接的な介護事業のほか、人材紹介や教育事業の拡大にも注力しています。
今回の株式取得は、首都圏を中心に事業基盤を強化する同社の成長戦略に合致したものでした。この事例は、地域に根ざした優良な介護事業を大手のネットワークへ統合することで、安定した運営体制を構築した成功例といえます。
2020年12月、介護業界の大手であるSOMPOケア株式会社は、東京建物シニアライフサポート株式会社の全株式を取得して完全子会社化し、翌年3月に吸収合併を実施しました。
SOMPOケアは、在宅から施設まで総合的な介護事業を展開する企業です。一方、東京建物シニアライフサポートは、首都圏を中心に介護付き有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅など19拠点の施設を運営する会社でした。
このM&Aは、需要の高い首都圏でのドミナント戦略を加速させ、介護事業の基盤をより強固にすることを目的としています。大手資本による統合により、既存事業とのシナジー創出や業界内での競争力強化を目指した、大規模な事業拡大の象徴的な事例です。
2020年7月、関東地方を中心に有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅を13拠点展開するワイグッドケアは、新たな事業取得を発表しました。
対象となったのは、栃木県でサービス付き高齢者向け住宅を展開していた「ご長寿くらぶ」の3施設です。
このm&aの主な目的は、サービス内容のさらなる向上と地域社会への貢献にあります。取引金額などの詳細は非公開ですが、地域に根ざした介護事業を譲受することで、同社の運営基盤はさらに強化されました。
このように、特定の地域で実績のある施設を事業継承することは、買い手側にとって迅速な拠点拡大につながります。一方、売り手側にとっても、信頼できる大手グループの傘下に入ることで、提供するサービスの質を維持・向上させながら、安定した運営を継続できるという利点があります。
介護事業のM&Aを検討するにあたり、多くの経営者が同様の疑問や不安を抱えています。
ここでは、特に多く寄せられる質問とその回答をまとめました。
具体的な検討を進める前の情報収集として、ぜひ参考にしてください。
はい、可能です。
M&A(事業承継)を活用することで、親族や社内に後継者がいなくても第三者に事業を引き継ぎ、存続させることができます。
従業員の雇用や利用者へのサービスを守りながら、経営者は引退後の生活資金を確保できるメリットがあります。
はい、売却できる可能性は十分にあります。
赤字であっても、事業所の立地や建物の状態、行政からの許認可、勤務する人材などに魅力があれば、買い手が見つかるケースは少なくありません。
買い手側の経営ノウハウによって黒字化が見込める場合、M&Aの対象となります。
株式譲渡の場合、従業員の雇用契約は原則として対象会社に残るため、労働条件も維持されます。一方、事業譲渡の場合は雇用契約が自動承継されないため、従業員ごとの同意や新たな雇用契約が必要になります。
これらは契約交渉における重要な条件となります。
本記事では、介護業界におけるM&Aの動向、メリット、価格相場、成功のポイントについて解説しました。
後継者不足、人材採用難、介護報酬改定といった厳しい経営環境の中、M&Aは事業の存続と成長を実現するための極めて有効な戦略的選択肢です。
売り手にとっては事業承継と創業者利益の確保、買い手にとっては迅速な事業拡大と人材確保という大きなメリットがあります。
成功の鍵は、M&Aの目的を明確にし、従業員や利用者への配慮を忘れず、介護業界に精通した専門家をパートナーに選ぶことです。
自社の未来を考える上で、M&Aという選択肢を具体的に検討してみてはいかがでしょうか。
\成約例や支援の特徴・流れを紹介/
ご相談・着手金は無料です。
売却(譲渡)をお考えの際はお気軽にご相談ください