
技術革新が著しく市場の変化が激しいIT業界において、M&Aは事業成長を加速させるための有効な経営戦略として注目されています。かつては大手企業中心に行われていましたが、現在では事業承継や人材獲得などを目的として、中堅中小企業においても活発に活用されるようになりました。
この記事では、IT業界のM&Aの最新動向から、買い手売り手双方のメリット、具体的な成功事例、そしてM&Aを成功に導くためのポイントまでを網羅的に解説します。
\成約例や支援の特徴・流れを紹介/

IT業界では、2022年以降もM&Aの件数が高い水準で推移しており、その動きはますます活発化しています。この背景には、単に事業規模を拡大するだけでなく、業界特有の構造的な課題や、急速な市場変化に対応するための戦略的な必要性が存在します。
具体的には「IT人材の不足」「事業承継問題」「スピーディーな事業展開の必要性」という3つの大きな要因が、IT企業のM&Aを後押ししていると考えられます。
IT業界は慢性的な人手不足に直面しており、特にAIやIoT、セキュリティといった先端分野の高度なスキルを持つエンジニアの確保は、企業の成長を左右する重要な経営課題となっています。優秀な人材を一から育成するには時間とコストがかかり、採用市場での競争も激化しているため、必要な人材を迅速に確保することは容易ではありません。
そこで、特定の技術やノウハウを持つ専門家チームを、企業ごと獲得する手段としてM&Aが活用されています。M&Aによって、買い手企業は即戦力となるIT人材を確保し、開発体制の強化や技術力の向上を短期間で実現できます。
IT業界においても、他業種と同様に経営者の高齢化が進んでおり、後継者不足が深刻な問題となっています。特に独自の技術力で成長してきた中小企業では、親族や社内に適任の後継者が見つからず、事業の存続が危ぶまれるケースが少なくありません。
このような状況で、M&Aは有力な事業承継の手段となります。
第三者に事業を譲渡することで、経営者は従業員の雇用や取引先との関係を維持したまま、安心して引退できます。また、長年かけて築き上げてきた技術やノウハウが散逸するのを防ぎ、次世代へと引き継ぐことが可能になります。
技術の進化やトレンドの変化が速いIT業界では、市場のニーズに迅速に対応することが成功の鍵を握ります。しかし、新たなサービスやプロダクトを自社でゼロから開発するには、多大な時間と開発コスト、そして失敗のリスクが伴います。
M&Aを活用すれば、他社が確立した技術やサービス、顧客基盤、さらには事業ノウハウまでを一括で獲得することが可能です。これにより、開発期間を大幅に短縮し、競争が激化する前に市場へ参入して先行者利益を確保するなど、スピーディーな事業展開を実現するための戦略的な選択肢としてM&Aが選ばれています。

IT企業のM&Aは、事業や会社を譲り受ける買い手と、譲り渡す売り手の双方に大きなメリットをもたらします。買い手にとっては事業拡大のスピードアップや人材確保が主な利点となり、売り手にとっては事業の存続や創業者利益の獲得などが実現できます。
それぞれの立場から、M&Aによってどのような具体的なメリットが得られるのかを整理して解説します。
買い手企業がM&Aを行う主な動機は、自社の経営資源だけでは時間のかかる課題を、他社のリソースを取り込むことで迅速に解決することにあります。具体的には、優秀な人材や専門技術の確保、新規事業へのスピーディーな参入、そして既存事業との相乗効果による競争力の強化という3つのメリットが期待できます。
IT業界における最も重要な経営資源の一つが、専門的なスキルを持つ人材です。M&Aは、採用市場では獲得が困難な優秀なエンジニアや開発チームをまとめて確保できる、極めて有効な手段となります。
特に、特定のプログラミング言語や最新技術に精通した人材、あるいは特定の業界知識を持つ人材は希少価値が高く、M&Aによって彼らを自社に迎え入れることで、技術開発力を飛躍的に向上させることが可能です。また、対象企業が保有する特許や独自のアルゴリズム、ソフトウェアなどの知的財産も同時に獲得できるため、技術的な優位性を確立することにも繋がります。
市場の変化が速いIT業界では、新規事業への参入タイミングが成功を大きく左右します。自社でゼロから事業を立ち上げる場合、市場調査や技術開発、人材採用、顧客開拓などに多くの時間を要しますが、M&Aを活用することでこれらのプロセスを大幅に短縮できます。
すでに関連分野で事業を展開している企業を買収すれば、その企業が持つ製品やサービス、顧客基盤、販売チャネルを即座に手に入れることが可能です。
これにより、事業立ち上げに伴う不確実性やリスクを低減し、競合他社に先駆けて市場での地位を確立する戦略的な動きが実現します。
M&Aの大きな魅力の一つに、両社の強みを組み合わせることで生まれる相乗効果(シナジー)があります。
例えば、自社が持つ広範な顧客基盤に対して買収した企業の優れた技術や製品を提供したり、双方の販売チャネルを相互活用して販路を拡大したりすることが考えられます。
また、自社の既存サービスと買収先の技術を融合させることで、より付加価値の高い新たなサービスを創出することも可能です。こうした相乗効果により、提供できるソリューションの幅が広がり、顧客満足度が向上し、市場における自社の競争力を総合的に強化できます。
売り手企業にとってM&Aは、単に会社を売却するというだけでなく、事業の持続的な成長や経営者の利益確保、そして後継者問題の解決といった、多様な経営課題を克服するための前向きな選択肢となります。
大手企業の傘下に入ることで、自社だけでは実現できなかった成長機会を得ることも可能です。
多くの中小IT企業にとって、経営者の高齢化に伴う後継者不足は深刻な課題です。
親族や社内に事業を引き継ぐ適任者が見つからない場合、廃業を選択せざるを得ないケースも少なくありません。M&Aは、このような後継者問題を解決する有力な手段となります。
自社の事業や技術、企業文化に理解のある第三者に経営を引き継いでもらうことで、会社を存続させることが可能です。
これにより、長年尽力してくれた従業員の雇用を守り、取引先との関係も維持できるため、経営者は安心して経営の第一線から退くことができます。
M&Aによって大手企業のグループに加わることで、売り手企業は強固な経営基盤を手に入れることができます。自社単独では難しかった大規模な設備投資や、優秀な人材の採用、積極的なマーケティング活動などが、買い手企業の豊富な資金力を背景に展開可能となります。
また、大手企業が持つブランド力や信用力、広範な販売ネットワークを活用することで、自社の製品やサービスの認知度を高め、新たな顧客層へのアプローチも容易になります。
これにより、事業の安定性が増すとともに、これまで以上のスピードで事業を成長させることが期待できます。
オーナー経営者が会社の株式を売却することで、これまで投下してきた資本を回収し、大きな売却益(創業者利益)を得られることもM&Aの重要なメリットです。この利益は、経営者の引退後の豊かな生活資金となったり、新たな事業を始めるための元手となったりします。会社を成長させるために長年尽力してきた経営者にとって、M&Aは正当な経済的対価を得るための機会でもあります。
従業員の雇用と事業の将来を確保した上で、経営者自身もリターンを得て、ハッピーリタイアを実現するための有効な出口戦略の一つです。
\成約例や支援の特徴・流れを紹介/

IT業界におけるM&Aは、様々な目的を達成するために活用されています。自社の状況と照らし合わせながら、M&A活用の参考にしてください。
マイクロソフトは2022年から2023年に1年以上の歳月をかけてゲーム開発大手のActivision Blizzardを買収し、Microsoft Gaming部門を強化しました。クラウド技術を活用して、ゲーム業界での優位性をさらに高める狙いがあります。
2021年、オラクルは電子医療記録(EMR)システムを提供するCernerを283億ドルで買収しました。この買収により、医療分野でのクラウドソリューションを強化し、医療データのクラウド管理におけるリーダーシップを目指しています。
2022年、Googleはサイバーセキュリティ企業のMandiantを54億ドルで買収し、自社のクラウドサービス「Google Cloud」のセキュリティ強化を図りました。Mandiantの先進的なサイバー攻撃検知技術を取り入れることで、クラウド利用企業により安全な環境を提供しています。
TDCソフトは、SAPシステムのコンサルティングを手がける八木ビジネスコンサルタントを買収し、金融関連ソフト開発での知見を拡充しました。この買収により、SAP関連ノウハウと自社のシステム開発技術を融合し、高付加価値の次世代サービスを提供することを目指しています。
飛島建設は、システム開発と保守業務を行うアクシスウェアを買収しました。これにより、デジタルトランスフォーメーションの加速を通じて、建設分野以外のビジネスソリューションの提供や事業領域の拡大を進めています。
中小企業向けにDX化支援を行うサンロフトは、水産業や製造業向けの基幹業務システムを開発するS’PLANTを子会社化しました。このM&Aにより、基幹システム開発体制を強化し、中小企業のDX支援体制の拡大を図っています。
2024年2月、コアコンセプト・テクノロジーは、製造業向けのスマートファクトリーソリューション「Orizuru MES」を提供しており、Pros ConsのAIソリューションを統合することで、生産性向上を目指しています。これにより、両社は製品力を強化し、競争力を高めることが期待されています。
2024年、パナソニックホールディングスの子会社のパナソニックコネクトが米ワンネットワークを買収しました。この買収は、パナソニックがグローバルなサプライチェーンの強化を目的としており、デジタル技術を駆使して効率的な物流管理を実現するための戦略的な動きです。
2024年1月、アクモスはプライムシステムデザインの株式80%を取得しました。これにより、アクモスはSES(システムエンジニアリングサービス)事業を拡大し、グループ全体での事業シナジー創出を図ります。アクモスはこのM&Aを通じて、ITエンジニアリング分野での競争力を強化し、さらなる成長を目指しています。
2024年2月、シーエーシーはスカイプロデュースジャパンの株式を取得しました。スカイプロデュースジャパンは、SES事業やソフトウェア開発を手掛けており、シーエーシーはこのM&Aにより、システム構築・運用事業における人材やリソースを強化することを目的としています。これにより、シーエーシーはより幅広いサービス提供が可能となり、事業の成長を促進します。
2024年4月、ヴェスはエー・アンド・ビー・コンピュータからSES事業を譲受しました。この取引により、ヴェスはシステム開発からテスト・保守運用までの一貫したサービスを提供する体制を構築し、事業の拡大を目指しています。特に、SES事業におけるクロスセルやシナジーの創出を期待しており、顧客基盤の拡大にもつながると考えられています。

IT企業のM&Aを成功させるためには、事前の準備から契約後の統合プロセスまで、一貫した戦略に基づいて慎重に進める必要があります。単に条件の良い相手を見つけるだけでなく、なぜM&Aを行うのかという目的を明確にし、計画的に実行することが不可欠です。
ここでは、M&Aの成功確率を高めるために特に重要となる5つのポイントについて、具体的に解説します。
M&Aを検討する最初のステップは、「なぜM&Aを行うのか」という目的を明確にすることです。
例えば、「先端技術を持つ人材を確保したい」「新規市場へ迅速に参入したい」「後継者不在の問題を解決したい」など、目的によって探すべき相手企業の条件や交渉で優先すべき事項が大きく異なります。
目的が曖昧なままでは、交渉の方向性が定まらず、M&Aが成立したとしても期待した効果が得られない結果に終わりかねません。経営陣の間で目的を具体的に言語化し、共通認識として持つことが、その後の全てのプロセスにおける判断の軸となります。
M&Aの交渉を有利に進めるためには、自社の価値を客観的に評価し、正しく理解しておくことが不可欠です。企業価値評価(バリュエーション)には、将来の収益性を基にするDCF法、純資産を基にするコスト法、類似する上場企業の株価を参考にするマーケット法など、様々な算定方法があります。
IT企業の場合は、保有する技術力や特許、顧客基盤といった無形資産も価値に大きく影響します。
会計士やM&Aアドバイザーなどの専門家の協力を得て、自社の強みと弱みを分析し、適正な企業価値を把握することが、妥当な価格で交渉を行うための基礎となります。
M&Aの成否は、実行するタイミングに大きく左右されます。売り手企業にとっては、自社の業績が好調で、市場環境も良好な時期が、より高い評価額で売却できる可能性が高まります。
業績が悪化してから慌てて売却しようとしても、買い手が見つかりにくくなったり、不利な条件を提示されたりするリスクがあります。
一方、買い手企業にとっても、自社の経営戦略や市場の動向を踏まえ、最適なタイミングで買収に踏み切ることが重要です。常に外部環境と自社の状況を分析し、戦略的に「いつ動くべきか」を判断する視点が求められます。
M&Aは、契約を締結すれば完了ではありません。むしろ、その後の組織統合プロセス(PMI:PostMergerIntegration)こそが成功の鍵を握ると言っても過言ではありません。特にIT企業においては、企業文化の違いや待遇の変化が、優秀なエンジニアのモチベーション低下や離職に繋がりやすいというリスクがあります。
これを防ぐためには、M&Aの交渉段階からPMIの計画を策定し、両社の従業員に対して経営方針やビジョンを丁寧に説明し、コミュニケーションを密に取ることが重要です。
異なる組織文化を尊重し、円滑な統合を進めることがシナジー創出の前提となります。
M&Aは法務、税務、会計など高度な専門知識を要する複雑なプロセスです。加えて、IT業界のM&Aでは、技術の将来性やソースコードの価値評価、キーパーソンとなるエンジニアの引き継ぎなど、業界特有の論点が多く存在します。
そのため、一般的なM&Aの知識だけでなく、IT業界のビジネスモデルや技術トレンドに深い知見を持つ専門家のサポートが不可欠です。IT業界でのM&A実績が豊富な仲介会社やアドバイザーをパートナーに選ぶことで、自社にとって最適な相手を見つけ、専門的な観点から交渉を有利に進めることが可能になります。

M&Aのプロセスは複雑で専門性が高いため、多くの企業がM&A仲介会社などの専門家と協力して進めます。信頼できるパートナーを選ぶことは、M&Aの成功を大きく左右する重要な要素です。特にIT業界の特性を理解しているかどうかは極めて重要です。
ここでは、自社にとって最適なM&A仲介会社を選び、失敗を避けるための3つの具体的な基準を解説します。
M&A仲介会社を選ぶ上で最も重要な基準の一つがIT業界におけるM&Aの支援実績です。
IT業界は技術の陳腐化が速く、エンジニアの価値評価やソフトウェアなどの無形資産の算定が難しいといった特有の課題があります。そのためIT業界のビジネスモデルや最新の技術動向に精通している専門家でなければ、適切なアドバイスは期待できません。
会社のウェブサイトで公表されている過去の成約事例を確認したり、担当者との面談で具体的な支援実績について質問したりしてIT分野における専門性の高さを確かめる必要があります。
M&A仲介会社の料金体系は会社ごとに異なり、着手金や中間金が必要な場合もあれば、完全成功報酬制の場合もあります。特に成功報酬の算出根拠となる「譲渡価額」の定義が、株式価値のみを指すのか、負債を含んだ企業価値を指すのかによって、支払う金額が大きく変わるため、契約前に詳細を確認することが不可欠です。
また、アドバイスのみを行うのか、書類作成や交渉の同席までサポートしてくれるのかなど、具体的なサービス範囲を書面で明確にしてもらうことも重要です。複数の会社から見積もりを取り、料金とサービス内容を比較検討することで、後々のトラブルを防ぎます。
M&Aは数ヶ月から時には1年以上にわたる長期的なプロジェクトです。そのため、自社の機密情報を共有し、二人三脚でゴールを目指す担当者との相性や信頼関係は極めて重要になります。
自社の事業内容やM&Aにかける想いを真摯に理解しようとしてくれるか、質問に対して誠実かつ的確に回答してくれるか、レスポンスは迅速かといった点を、最初の相談の段階から見極めることが肝心です。専門知識が豊富なことはもちろんですが、経営者の気持ちに寄り添い、円滑なコミュニケーションを通じて安心して任せられる担当者かどうかを慎重に判断してください。
詳しいM&A仲介会社の選び方については、『失敗しないM&A仲介会社の選び方|比較ポイントや注意点、費用を詳細解説』も参考にしてみてください。
https://www.willgate.co.jp/ma-column/knowledge/3917/
IT業界におけるM&Aは、深刻化する人材不足や事業承継といった経営課題を解決する手段であると同時に、技術革新の速い市場で競争優位性を確立し、事業成長を加速させるための強力な戦略的選択肢となっています。
買い手は迅速な人材・技術獲得や新規事業参入、売り手は事業の存続や創業者利益の確保といったメリットを享受できます。
M&Aを成功に導くためには、目的の明確化、自社の客観的な価値評価、最適なタイミングの見極め、そして契約後の丁寧な組織統合(PMI)が不可欠です。
これらの複雑なプロセスを円滑に進める上で、IT業界に精通し、信頼できる専門家のサポートを得ることが重要な鍵となります。
ウィルゲートが目指すのは、売り手様、買い手様、双方に納得感のあるM&Aです。M&Aがお客様の目的やご希望に合致しない場合、無理にM&Aをすすめることは絶対にありません。
M&Aで思わぬ失敗をしないためにも、まずは一度、ウィルゲートM&Aにご相談いただければ幸いです。
M&Aが解決策として見込める場合、15,100社以上の経営者とのネットワークから、最適なマッチングを迅速にご提示させていただきます。
成約実績は2年で50件以上、完全成功報酬型で着手金無料ですので、まずはお気軽にご相談ください!
\成約例や支援の特徴・流れを紹介/
ご相談・着手金は無料です。
売却(譲渡)をお考えの際はお気軽にご相談ください