妊娠・出産領域のNo.1メディア、ベビーカレンダー安田代表のM&A術──決め手はメディカルリサーチの“営業力”と“事業シナジー”

- 売却した会社
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株式会社メディカルリサーチ 様
- 買収した会社
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株式会社ベビーカレンダー 様
妊娠・出産・育児に関する総合情報メディアの運営で名を馳せる株式会社ベビーカレンダーでは、精力的にM&Aを行いながら女性や健康をテーマにした多様なメディアを展開しています。
同社では2024年10月には医療に関するメディアマーケティング支援を得意とするメディカルリサーチ株式会社から株式譲渡を受け、同年12月に正式に吸収合併しました。
メディカルリサーチ社が事業売却の意志を表示したのは、株式譲渡のわずか4カ月前のこと。
スピーディに実現したM&Aの背景について、ベビーカレンダー社の経営トップである安田啓司代表と、事業部長を務める藤盛良平氏(旧メディカルリサーチ社 代表)にお話を聞きました。
「メディア」という共通項がある2社の事業内容
――それぞれの事業内容について教えてください。
■藤盛氏
2022年に創業したメディカルリサーチ社(現・メディカルリサーチ事業部)では、医師をはじめとする専門家の知見をもとにした商品・サービスのプロモーション支援を主力事業として位置づけています。
例えば、健康食品などを扱う通販サイトで新たにサプリメントを販売するとして、医師による推奨コメントやレビュー記事などが添えられていれば、商品に対する信頼性向上が見込めます。弊社には多様な分野で活躍する約400人の医師が登録されており、商品に必要な専門性を柔軟に提供することができます。
もう一つの柱としてはウィルゲートさんの事業とも重複するのですが、SEO支援を進めています。医療や美容、健康といったサイトにおいて、医師が監修した正確なコンテンツを提供していくことで、SEO上の効果を高めていくというのがその狙いです。
安田啓司代表
□安田氏
現在の形態のベビーカレンダーは、2015年、クックパッドの妊娠・出産コーナーから始まりました。当時、不正確な医療情報を掲載するメディアが検索サイトの上位を占めており、深刻な社会問題として認知されていました。
妊娠・出産こそ信頼できる情報が必要だと考えたことから専門の情報メディアを立ち上げるとともに、産婦人科向けのITソリューションサービスも開始しました。その後、2017年にはMBOを経て独立を果たし、2021年には東証マザーズに上場しました。
主力メディアとなるWebサイト「ベビーカレンダー」は、月間1000万人以上に利用していただいており、妊娠・出産領域ではナンバー1と言えるメディアに成長したと自負しています。上場後は年4~5件のM&Aを行いながら積極的にメディア数を増やし、直近では女性の健康・生理・医療などの領域で14メディアを運営しています。
藤盛良平氏
出口戦略の一つとしてM&Aを視野に入れる
――今回、メディカルリサーチ社がM&Aという選択をされた背景について教えてください。
■藤盛氏
おかげさまで医師の知見を活用するというサービスは、メインクライアントである通販会社から好評を博しており、順調に業績は伸びていましたが、出口戦略については、明確に固まっていない状態でした。
M&Aについても、出口戦略の一つとして考えてはいましたが、必ず踏み切ろうという感覚ではなく、自分たちのみで事業をスケールする形も含めて可能性を模索していたのが2023年頃の話です。
――変化したのは、2024年に入ってからと伺っています。
■藤盛氏
事業がある程度伸びてきた反面、さらに成長させていくとなると複数の課題が表面化しました。例えば、大手企業にメディカルリサーチの商材を販売したいと考えたとき、あまりに組織が小さすぎるがゆえに信頼が得られないケースも多く発生していました。
実際、同じサービスが提供できるにもかかわらず、より高額を提示した競合他社に案件を奪われたことも。だからこそ、今後この事業をさらにスケールするには上場しているような名のある、かつ弊社とシナジーがある企業と一緒になるのが最良の道だと考えました。
聞き手:ウィルゲート 専務取締役COO 吉岡
成長中のメディアのM&Aを通して、スピーディな事業拡大を志向
――ベビーカレンダーでは元来、M&Aに注力していたそうですが、その理由はどのようなものがあるのでしょうか?
□安田氏
弊社が注力しているメディア事業は、ビジネスモデルが広告であることから、収益を出すレベルに至るまでにはどうしても長い時間がかかってしまいます。クライアントから信頼を勝ち得て安定的に収入が入るまでには最速で3年、本音を言えば5年はほしいところです。
僕はこの時間が“もったいない”という感覚ですので、成長途中のメディアをM&Aすることで事業拡大していくのを目指してきました。といっても闇雲にアプローチするのではなく、創業の経緯にも繋がりますが、正しい情報提供を通して世の中に役立ちたいとの思いが大前提。
また、女性メディアを手がけてきた編集者が40~50名在籍していますので、何らかの形で女性にかかわっているというのも条件の一つです。
――ウィルゲートとは、どのような形で接点を持ったのでしょうか?
□安田氏
かねてから弊社側から30~40社のM&A仲介会社に声をかけていました。ウィルゲートM&Aさんにも、窓口の桑原がWebサイト経由で問い合わせしたと聞いています。
積極的にM&Aしているので仲介会社から声をかけられることも多いのですが、ただただ待っているだけではなく、自ら行動した方がいい出会いが生まれる可能性は高いと思っています。
■藤盛氏
メディカルリサーチ側では情報収集の意味を込め、2024年には何社かの仲介会社に声をかけており、その中にもウィルゲートM&Aさんが含まれていました。当時は一つの選択肢だったのですが、本格始動をしてからはウィルゲートさんには期待するものが多々ありました。
事実、弊社と共通するSEO対策を手がけるなどITに強く、しかも営業力も高い会社ですから、ITと営業力をストロングポイントとする私たちをご理解いただいて交渉してくれるだろうとの期待感を持っていました。
お互いの従業員の魅力が、M&Aをスムーズに進める力に
――M&Aまでの流れを教えてください。
■藤盛氏
6月に本格稼働して以降、トップ面談は6社ほど行いました。ただ、従業員6名程度の小さな組織、また事業を始めて2年半ということもありどうしても弊社が希望する条件と折り合いがつかない時間を過ごしました。
□安田氏
弊社にも同じ条件で声がかかりましたが、過去のPLが2周半ほどしかない若い企業だったこともあって、正直、提示された希望売却価格は“高い”印象を受けました。しかし、話を進めていくうちに、事業シナジーがある会社だというのがわかり、おのずと前向きに受け止めるようになりました。
弊社では100%広告型のメディア事業を展開していますが、ページビュー単位での広告ではノウハウが蓄積されている反面、タイアップなどの付加価値を付ける広告に関しては強くない面がありました。その点、メディカルリサーチ社はタイアップ広告に強いですし、そもそも営業力が高い会社ですから、私たちの弱点をプラスに転換してくれるだろうとの期待感を抱きました。
■藤盛氏
実のところ、想定していた買い手は、医師監修事業を手掛けている同業他社や通販系企業でした。ウィルゲートさんからメディア事業を営むベビーカレンダー社を紹介していただいたのは“意外”の一言。頭になかった業態だったからこそ、ありがたいというのが正直な感想でした。
良く調べていくとベビーカレンダー社は医師監修コンテンツも手がけていますので、メディカルリサーチとシナジーがある会社だというのはよくわかってきました。
何よりも安田はもちろん、窓口となってくれた桑原をはじめとする従業員のみなさんが、ちいさな会社の私たちに対して、真摯に、誠実に向き合ってくださった姿が強く印象に残りました。従業員も同じ組織に入ることになる以上、気持ちよく働ける環境というのは重要な要素だと思いました。
□安田氏
人の魅力というところで言えば、驚いたのはメディカルリサーチ社の従業員のみなさんと面談したとき。他社のケースですと重苦しい雰囲気になることも多いのですが、今回のM&Aに関して前向きに、気持ちよく受け答えしてくれる姿に、大きな違いが伝わってきました。
■藤盛氏
従業員に対しては、上場企業であるベビーカレンダーに加わったときの、会社として、そして従業員個人としてのメリットを事前に説明しました。また当たり前と言えば当たり前なのですが、面談前「先方にネガティブなことは伝えないでね」」なんてことも事前に伝えずに、出来る限り現状を正直に伝えて欲しいとお願いして面談に臨んでもらいました。仮に弊社から良いことばかりを伝え、成立に至ったとしても、すぐに歪みが生まれ、お互いに取って良いことがないと強く考えていたためです。従業員のみんなの理解もあり、正直ベースでのコミュニケーションができたのだと思います。
上場企業のブランド力が、メディカルリサーチの可能性を大きく広げている
――かなり短期間での成立となりましたね。
□安田氏
LOI(意向表明書)は7月末に提出し、8月上旬から独占交渉に入りました。事業内容は全く心配なかったですし、従業員のみなさんの資質も申し分なく、書類も整備されていましたので、早く合意に至りたいと考えました。実は本当はもっと早く締結したかったのですが、弊社側の四半期決算との兼ね合いで10月に正式決定という運びとなりました。
■藤盛氏
短期間での手続きとなりましたが、形式的な面で困ったことはありません。M&Aについて初心者の自分たちに対して、ウィルゲートさんが基礎の基礎から教えてくれたのは心強かったですね。
――株式譲渡から1年の月日が経過しました。現在のご感想、今後の展望を率直にお聞かせください。
■藤盛氏
結論としては「非常に良かった」の一言に尽きます。以前のような小さな会社ではなく上場企業となったことで、従業員たちが安心して働いてくれているのが見て取れます。事業的にはベビーカレンダーのブランド力の強さを噛み締めています。
かつて営業かけても話も聞いてもらえなかった著名な大手との取引もスタートしており、営業対象が大きく広がったのは間違いありません。
□安田氏
藤盛たちは期待以上に業績を伸ばしてくれており、頼もしいメンバーが加わったと思っています。営業マンの集団ですので、既存の営業たちへの相乗効果も期待していたのですが、実際に事業が異なる他部署の営業にもアドバイスをもらうこともできています。
■藤盛氏
メディカルリサーチ事業部では、ベビーカレンダーがすでに展開しているメディアの販売も行っています。その中で気付いたことなどは他部署にも遠慮なく伝えさせていただいています。
現状は部署ごと、商材ごとに縦割りになっている営業部ですが、将来的には顧客の課題に対して幅広く提案できる営業集団作りに貢献したいとも考えています。
ちなみにベビーカレンダー独自商材の提案をきっかけに、メディカルリサーチ時代では開拓できなかった顧客にも入り込めるようになるなど、ここでも相乗効果も生まれています。
ウィルゲートの対応スピードの早さと誠実さが魅力だった
――ウィルゲートを利用したご感想はいかがですか?
■藤盛氏
事前の期待通り、他の大手仲介とは違った形で提案いただけたおかげで、予想もしなかったベビーカレンダー社との出会いが生まれました。SEOという同じ領域で活躍されている企業なので、弊社の事業理解も非常に深いところまで把握してもらえたとの感覚も有しています。
個人的に大きかったのは、対応スピードが飛びぬけて早かったこと。決して他の仲介が遅いという訳ではないのですが、ウィルゲートさんの場合、質問に対しても即日回答をもらえることも多くスムーズに物事を進めることができました。
□安田氏
M&A仲介会社に私たちが求めているのは、“騙さない人”という点に尽きます。
交渉中、仲介会社の対応から「値段を吊り上げているのだろう」との印象を持つことも多いのですが、ウィルゲートさんの窓口となってくださった田中さんは誠実に対応してくださいました。
難しい話をうまく調整できる能力のある人で、我々と藤盛側の要望をきちんとかみ砕きながら、いい落としどころを見つけてくれたのがありがたかったですね。
ウィルゲートM&A 事業責任者 田中
――M&Aを検討している企業へのメッセージをお願いします。
■藤盛氏
自分たちのような10人未満の中小企業へのメッセージということになりますが、小さな企業であってもM&Aは十分に現実的な選択肢なのは間違いありません。ウィルゲートさんのような仲介会社が増えてきており、M&Aそのものがわりとカジュアルな選択肢になっているのではないでしょうか。
仮に現在M&Aを考えていない会社だとしてもまずは話を聞いてみるだけでも今後のためになるはずです。ぜひ一度、M&Aの専門家に相談して、情報を把握しておくのをおすすめします。仲介会社が入ってくれるとしっかりとレールを引いてくれるので、M&Aの流れについてはほとんどわからなくても安心できる部分が大きいですよ。
□安田氏
上場しているとはいえ、ベビーカレンダーは比較的小さな企業です。経営判断を下せる僕がいて、M&Aの窓口担当者も配置していますから、過去、即断即決でM&Aを進めてきました。事実、規模が小さいM&Aならば1か月スパンですべてを終えたこともあります。
弊社ではこれからもメディア事業を中心にM&Aを進めていきます。ご興味がある企業とはぜひ一緒に事業を進めていきたいですね。医療法人向けの事業も展開していますし、自社内でアプリ制作できるエンジニアもほしいので、さまざまな方向に視野を広げながらご縁のある企業を探していくつもりです。